日本が置かれたこうした状況を考えると、科学という学問を盛り立てていかなければならないという気持ちを、学生の皆さんには理解してほしいのです。そうはいっても、これからの日本を背負う若い皆さんが全員、科学者や技術者になってほしいということではありません。経済や文学、その他の分野に取り組む人たちが居なくなっては、困るのです。

 強調しておきたいのは、どの分野の学問であっても、将来の望みや希望は自分たちで作っていくものだということです。例えば、理科や技術者と聞くと「将来の望みも希望もない」と言う人がいるようですが、それは違います。他人が言っていることを、そのまま受け入れるような感覚では、困るのです。

 理科というのは、とても重要な学問です。科学者や技術者は、とても重要な職業だということを、若い世代の皆さんには、ぜひ理解してほしいと思います。

未知の分野が多い理系の魅力

 理系の学問の重要性や魅力の一つに、領域が広く、未知のものや、未知の分野が、まだまだ多いことが挙げられます。例えば、資源やエネルギーの現状、東日本大震災以降の原子力発電所の置かれた状況への対応です。原子力に代わるエネルギーを模索してみても、太陽光や風、波、地熱といった候補が取りざたされています。太陽の熱から、地球の全体で必要となるエネルギーを取るとしたら、太陽の全体のエネルギーのうちの、ほんのわずかな比率で賄うことができると思います。

 しかし、ほんのわずかであっても、われわれが地球上で使用する充分な量のエネルギーを取り出すことは、容易ではありません。太陽の熱を使って発電するといっても、われわれみんなが生きていくためには、照明など住まいや街に必要な電力だけでなく、工業に必要な電力も賄わなければなりません。工業に必要なのは、われわれが生きていくために必要なエネルギーの、何倍も多くのエネルギーなのです。

 こうした電力を、太陽の熱を使ってかなりの量を賄うことは、可能性としてはあるのではないかと思います。いつになるかわかりませんが、技術がさらに進歩して優れた手法が登場するかもしれません。そのためには、サイエンスが絶対に必要なのです。