写真1●はやぶさに搭載されたイオン・エンジンの模型。著者が撮影。
写真1●はやぶさに搭載されたイオン・エンジンの模型。著者が撮影。
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写真2●デジタルグリッドの概要。著者が撮影。
写真2●デジタルグリッドの概要。著者が撮影。
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写真3●コミュニケーション用ロボット「PaPeRo」を使った見守りシステム。著者が撮影。
写真3●コミュニケーション用ロボット「PaPeRo」を使った見守りシステム。著者が撮影。
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 NECは、電話網、携帯電話の基地局、テレビの放送設備、鉄道用システム、鉄道や船舶、航空用の無線通信、宇宙通信といった通信関連機器、パソコンからスーパーコンピュータまでの幅広いコンピュータ、ITのサービスを主力の事業としている、日本のエレクトロニクスを代表する企業の一つだ。

 「CEATEC JAPAN 2011」(2011年10月4~8日、千葉県・幕張メッセで開催)においては、小惑星探査機で培った技術や、次世代の電力網に向けた技術、高齢者を見守るための技術など、今後の技術開発の動向や社会生活における課題を意識した展示が目についた。

劣化を抑制して小惑星探査を支える

 同社がブースの入り口で展示していたのは、2003年に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ」に関連するさまざまな模型(写真1)。はやぶさは、イトカワと名づけられた小惑星から地表のかけらを採取し、カプセルで地球に持ち帰るという、世界初のミッションを目指した探査だ。NECは、このはやぶさの全体のシステムの開発や製造などに携わってきた。

 例えば、イオン・エンジンがある。同じ推進力を生み出すために必要な燃料が通常のロケット・エンジンより少なくて済むため、長期間運用する静止衛星や宇宙探査機に向いているエンジンだ。イオン・エンジンは、放電により推進剤をプラズマ化し、電位差をかけて加速することで噴射する。長い時間、連続して稼働させることで、最終的に大きな加速を得る。

 ただし、イオン・エンジンは、放電にホロー・カソード電極を使うために、電極が消耗してしまい、寿命が限られているという問題を抱えていた。また、地上で組み立てる時に、電極が空気に触れることで、劣化していくという問題があった。

 これに対し、NECのイオン・エンジンは、マイクロ波を使った無電極放電によってプラズマを生成することによって、電極の劣化という問題を回避でき、従来のイオン・エンジンより長寿命化できる特徴がある。また、電位差をかけて推進剤を加速する、イオン加速グリッドの材料を、従来のモリブデンからカーボン複合材に変えることによって、耐久性を高めている。

 こうした工夫によって、従来のイオン・エンジンの寿命が1万2000~1万5000時間だったのに対して、NECのイオン・エンジンは、はやぶさに搭載したもので3万5000時間の動作に耐えた実績を持っている。

 同社では、はやぶさの開発で得た知見を生かして、その基礎技術を標準化することで実現した、従来より安価で軽い衛星を提案しはじめている。標準モデルをベースとして、オプション機器や必要なソフトウエアパッケージ、ボードなどを追加して、幅広いミッションに対応する汎用的な小型衛星だ。同じ用途の従来の人工衛星に比べると、価格で約2分の1、重量も2分の1から4分の1まで抑えられている。

電力を識別可能にする

 次世代の電力網の実現に向けて、あたかも情報のネットワークであるインターネットの仕組みを、電力網に持ち込んで、エネルギー関連の情報をやりとりする技術の展示にも、注目が集まっていた(写真2)。「デジタルグリッドコンソーシアム」という、研究開発コンソーシアムにおける取り組みで、小規模の電力網をメッシュ状に連携させ、柔軟に電力を融通しあうことで、電力周波数の変動を抑えたり、再生可能エネルギーなど電力変動の大きな再生可能エネルギーを電力網に連係しやすくしたりすることを狙うものだ。

 デジタルグリッドは、東京大学大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻 特任教授の阿部力也氏が提唱している技術コンセプトである。技術コンセプトの中には、インターネット網におけるルーターのような仕組みが含まれている。電力網を流れるある単位の電力が「いつ・誰が・どこで・どうやって発電した電力なのか」を識別できるようにするものだ。

 従来の電力網では、こうしたことは難しく、電力網を流れた電力は、すべて同質化されてしまっている。このため、供給される電力の価値は、品質を除くとエネルギー量しかない。これに対して、デジタルグリッドでは、ある単位の電力に、さまざまな識別情報が付与されて、他の電力と区別したエネルギーとして、電力網の中を移動するようになる。そうすれば、単位電力ごとに、再生可能エネルギーの利用比率といった価値を付加することが可能になって、その価値を反映させて取引できるようになる。

家族の代わりとして高齢者に接する

 さらに、今後の社会の課題を先取りするような展示として、同社は、高齢者とその家族などに向けた、リモート見守りシステムを参考出展した。同社のコミュニケーション用ロボット「PaPeRo」と、タブレット端末「Life Touch」を連携させたシステムだ。高齢者の家族が、遠隔地でLife Touchを使って、高齢者の家にあるPaPeRoを動かすことによって、高齢者のようすを確認したり、高齢者とコミュニケーションを取ったりすることができる。

 今回のシステムにおいて、かわいらしい風貌のコミュニケーション用ロボットを使うことで、単にカメラやセンサーを使った高齢者の見守りとは、心理的に異なる効果が期待できるとNECは見ている。人間に近い風貌をしていて、会話もできるなど、双方向のやり取りが可能なために、家族の代わりとして高齢者に接してもらいやすいためという。

 高齢者の家族は、PaPeRoのカメラや音声認識機能を使って、高齢者の家の画像や音声をLife Touchを通じて、確認できる。一方、高齢者に対しては、家族がLife Touchにテキスト入力した言葉を、PaPeRoにしゃべらせることができる。また、「上を向く」、「喜ぶ」など、用意されたコマンドをLife Touch上で選択することで、PaPeRoにその動作をさせることができる。

 今回のシステム向けに、PaPeRoには、若干の改良を加えたようだ。例えば、遠隔操作を受けられたり、音声や画像を送受信できたりするプログラムを導入したことだ。一方、Life Touchで利用するアプリケーションはAndroid対応であり、Life Touch以外のAndroid端末でも今回のシステムを構築できるという。