ティファールの「アプレシア」。側面の窓から中を見られる

 ここ数年、家庭からある生活家電が急速に姿を消しつつある。キッチン用の家電では炊飯器、電子レンジに次ぐ市場規模を持っていたと言われる、電気ポットだ。

 代わって台頭しているのが電気ケトル。ポットのシェアを奪いながら、市場規模は毎年、前年比で2ケタ成長を続けている。2010年度の出荷予想台数は約 278万台と、初めて電気ポットを逆転すると見られる(象印マホービン調べ)。水の沸騰と保温ができるポットに対して、電気ケトルは保温機能がなく、沸かすことしかできない。単機能にもかかわらずなぜ人気なのか。

 ケトルを販売する各メーカーが理由として挙げるのは、「ずっと保温し続けるのはもったいない」という意識の変化。エコと節約の両面から保温時の電気代を気にする人が増え、飲みたい時に飲みたいだけ沸かす、という生活スタイルが広がっているためだ。

 電気ポットの容量は一般的に2リットル以上だが、電気ケトルは0.6~1リットルと小容量のサイズが中心。また、ワット数はポットより高い1200~1450ワットが主流だ。沸騰までの時間は基本的にワット数の大きさに比例するため、スピードが速い点も受けている。

パナソニック参入で全社出揃う

 急成長する電気ケトル市場をいち早く切り開いたのは、ティファールブランドを展開するフランスのグループセブ。2004年秋に日本でテレビCMを開始し、「最初のシェアはほぼ100%」(グループセブ ジャパン)だった。デザインの良さなどが評価され、徐々に電気ポットの市場を侵食し始める。

パナソニック「NC-KT081」。国内他社と同じ寸胴型を採用

 2008年に参入した最初の日本勢は、ポット(魔法瓶)を祖業とする象印マホービン。これにタイガー魔法瓶や三洋電機、東芝ホームアプライアンスが追随し、今年の1月末にはパナソニックもようやく新製品を投入。国内主要メーカーの電気ケトルが出揃い、地味だった売り場が華やいだ。パナソニックは最後発になった理由を、「市場の変化が想定以上に速かった」と述懐する。

 ティファールなどの海外勢と国内メーカーのケトルには、実は大きな違いがある。ティファールのケトルは一重構造のため、成型しやすくデザイン性に優れるが、側面部分が熱くなりやすい。転倒時の湯漏れを防止する機能もついていない。

 「周りが熱くなる、倒れると湯がこぼれるという構造は、ポットメーカーとして正直許せなかった」と打ち明けるのは、ある日本のメーカー。後発となった国内勢のケトルは、内側がステンレスの二重構造で側面が熱くなりにくい。全社が転倒時の湯漏れ防止機能も採用している。ポットでのノウハウを生かした作りだ。

 だが一方で、デザインはどのメーカーも似たような寸胴型で、意匠に乏しい印象は否めない。国内各社も、「構造や仕様は似通っているので、差別化が非常に難しい」と話す。

 現時点でのシェアは、依然としてティファールが50%以上を占めていると見られる。安全、安心を訴求する国内勢の巻き返しにも注目だ。

 電気ポットに比べて、もともとは若年層やシングル向けの印象が強かった電気ケトルだが、中高年やファミリー層など裾野は広がっている。パナソニックの専門店でも、「高齢の方から、電気ケトルが出るのを待っていた、という声をよく聞く」という。昭和の台所や茶の間に堂々と鎮座していた電気ポット。この光景が過去のものになりつつあるようだ。