「モバ美」という言葉をご存じだろうか。身だしなみに敏感な若い女性が、カバンに入れて持ち運ぶモバイル美容グッズを指す。昨年は電動歯ブラシから携帯用ヘアアイロン、空気の除菌効果があるとされるイオン発生器まで、次々とヒット商品が生まれた。

 パナソニックが昨年10月に発売したポケット吸入器「EW-KA30」も、このブームにあやかる狙いがあった。だが家電量販店では男性サラリーマンが買い求める姿も目立ち、男女兼用のモバ美商品となっている。

 吸入器はネブライザーとも呼ばれ、喘息患者などに液体の薬を霧状にして気管に届ける医療用器具でもある。家庭用は薬の代わりに水を霧状にして、のどや鼻に送る。

 パナソニックはこれを高さ約9cm、幅6cm弱とたばこの箱と同程度まで小型化した。乾電池で作動し、店頭価格は5000円前後。のどの乾燥や不快感を和らげることに用途を絞った。

 仕組みは、電動式の霧吹きと考えると分かりやすい。内部のタンクに水を注入し、スイッチを入れるとモーター型のポンプが吸い上げる。さらに空気と水を混合させて霧を作り出す。約3分間連続で噴霧できる。

 携帯型にしたのは若い女性を意識したため。パナソニックが家庭用吸入器の利用者を対象に調査したところ、20~30代の女性の多くが外出時ののどの不快感を緩和するために携帯型吸入器を求めていたという。特に空気が乾燥する冬はつらくなる。

 不快感を解消しようと水などを持ち歩く人も多いが、水は気管でなく食道を通るため、不快感の一因となる気管付近の粘膜の乾燥にはあまり効果がない。一方で吸入器は、自然に呼吸しながら吸い込むと霧が気管の方に導かれ、周囲の粘膜を潤すことができるという。粒子の大きさは粘膜に沈着しやすい約40マイクロメートル(マイクロは100万分の1)とした。

 販売は出だしから好調で、「2011年3月までに8万台を超える勢い」(同社)と当初計画の4倍の売れ行きを見込む。想定外だったのが男性からの支持。「出張中のホテルや飛行機など機密性の高い空間で、のどに不快感を覚えるサラリーマンが多かった」(同社)という。会議や商談前にのどを潤せば咳払いも減り、好感度が上がりそうだ。

花粉症で再び需要が増しそう

 男女を問わず、風邪の予防のために吸入器を買い求めるケースも多い。こうした消費者に根強い人気があるのが、室内で使う吸入器。携帯型との大きな違いはスチーム機能で暖かい蒸気を作ること。のどだけでなく鼻にも送れ、蒸気の量や温度を調整できる。

 オムロンヘルスケアは昨年11月、家庭用吸入器を7年ぶりにモデルチェンジし、安全機能を強化した。蒸気の噴霧が終了すると自動的に電源が切れるほか、タンクに水がない状態で電源を入れる空焚きや製品の傾きを検知すると自動的に電源が切れる。

 オムロンによると、2009年度は新型インフルエンザが猛威を振るったことで、吸入器市場は前の年度から2割近く伸びた。また昨夏の猛暑の影響から、今春の花粉飛散量は昨年から急増するとの予測もある。花粉症対策として再び需要が増す可能性がある。

 だがこれまで、風邪や花粉の流行に売り上げが左右されてきたのも事実。今後は携帯型のポケット吸入器の登場で高まりつつある消費者の認知度を、いかに市場の持続的な拡大につなげるかが問われる。