取材レポート

雨宮美沙さんのレポート

 私にとって人生初の工場見学であった。そこでは見るもの聞くこと全てが新鮮であった。そして私は記事への不安を抱きつつ,ここで働く自分を一生懸命想像していた。「研究職に就きたい」と口でかっこいいことが言えても,心の中ではいつでも不安が付きまとう。そんな不安を消したかったからだ。

 まずは会社説明。東京エレクトロンがどれだけすごいか全く知らなかった。どれだけすごいのかというと,「年収ランキングに載ってるよ!」っていうのが学生には分かりやすいと思うのだが,「世界に誇れる技術がここにある!」というのがいいと思う。世界に顧客を持ち,世界にサポートのための支社を置き,海外出張が多くあるグローバルな会社。私の思っていた,地味なイメージとは真逆であった。

タイトル

 そして半導体業界≠半導体製造業界だと分かった。まず,顧客が違う。次に,シェアも全然違う。そして安定性が違う。競う相手が少ないのも理由になるが,そもそも技術力が必要であるため,新規に参入しづらい。そのため,安定して業績を伸ばしている。景気に左右されやすいが,これからの社会を考えると下降をたどることはまずないだろう。半導体製造装置の需要は半永久に存在していく。

 今回,特別にクリーンルームに入らせてもらった。クリーンルームとは,簡単に言えばほこりがすごく少ない部屋である。クリーンルームに入るために手袋,つなぎ,帽子,眼鏡,マスク,靴……あんなに体を覆ったのは初めてだ。そして入る前に空気による洗浄。プシューっと空気を浴びるのが少し楽しかった。

 やはりクリーンルームというだけはあって,とても無機質であった。そこには見慣れぬ巨大な機器ばかりが所狭し置いてあった。働いている方たちは皆同じ格好をしてパソコンとにらめっこしていたり,部品交換をしたり,試行錯誤を繰り返していた。宇宙に来たような異世界に来たような気分になった。見るものすべてが新鮮で楽しく,すごくキョロキョロしてしまった。

 私はワクワクしていた反面,不安も感じていた。知人すら居ない見知らぬ土地に移り住み,毎日無機質な機器に囲まれ暮らしていく。今まで自宅から都心の学校に通い,買い物が大好き,友達と遊ぶのも大好き。そんな普通の大学生の私が一人暮らしであろう研究職に就くことが可能なのか。現在の生活が180度変わるのではないか。

タイトル

 だけど,そんな不安をかなり和らげてくれることがあった。ウエハーの入ったケースにあった付せんにマジックで「まっしーへ」(このウエハーをまっしーに渡したいのか)とあるのを見つけた。この無機質な部屋に初めて人間味を感じ取ることができた。

 思い返してみると,クリーンルームに入る前に社員食堂でごちそうになったのだが,あの全身真っ白の無味乾燥な雰囲気とは正反対の,普通の姿をした人達でいっぱいだった。しかも,東京エレクトロンには,全国各地の事業所にある社員食堂の人気メニューが書かれた「全国社員食堂ランキング」まであるらしい。安くておいしい食堂があるというのは研究職の魅力の一つだ。

 そして「キーンコーンカーンコーン」チャイムの音。なんだか学校みたいだ!と思った。

 エッチャー担当の中川さんに取材した。エッチャーとはエッチングを行うための装置である。エッチングとは,簡単に言えば,プラズマを利用して邪魔な部分を削り取る作業。取るだけと思いきや,その取る作業が難しい。あんなに小さいものに対して正確に早く取らなければならない。エッチャーは東京エレクトロンの主要機器の一つである。

タイトル

――半導体の発展に限度に近付いているというのは感じますか?

中川さん:「私はいつでも限界を感じています。2年前も限界を感じていました。でもそこであきらめなければいくらでも限界を超えていけます」

――DRAM向け30nmプロセスに必要なエッチング装置の開発に成功した秘訣は何だったのでしょうか?

中川さん:「やはりチームワークですね。日頃からコミュニケーションを大事にすることで話しやすい職場を作り,新しいものを作ろうという皆の熱意があったからこそできました」

 意外な言葉が返ってきた。半導体製造装置業界ってこんなに熱いなんて知らなかった。世界に誇れる技術は多くの人の力で成り立っている。半導体製造装置業界は協力を重んじる日本人気質に合っているのだと分かった。

 やっぱり研究職って,エンジニアってかっこいい! 私の不安は和らいだ。