自宅の近くに学校がある。その学校はInternational Schoolであり、さまざまな国や地域の子供達が通っている。地下鉄で登校する児童や生徒もいれば、送迎バス、自家車での送迎も多い。自宅の周りでは、年々外国人居住者が増えているらしく、その学校では新校舎の建設が進められてきた。土地の拡張は難しいようで、運動場の一部を削って新校舎を作っている。

 最初に運動場の南や西に建屋ができ、次に東といった風に、継ぎはぎ状に足されてきた。校庭の北にはガソリン・スタンドがあるため、これらの校舎ができたことによって、四方を建屋で囲われた中庭のような場所が運動場になってしまった。南と西の校舎は低い建屋である。もう少しそれらを高層にしていれば、継ぎはぎ状の拡張にはならず、運動場も広く確保できたと思う。いつごろから学生がどのくらい増えるかという予測を立てるのは難しかったと想像するが、実は、これまで誰もそれを予測してこなかったのではないかとも思う。いわゆる「ゆで蛙」現象が起こっていたのだろう。

連続ヒットに落とし穴

 ご存じの方も多いだろうが、「ゆで蛙」現象を簡単に説明しておく。蛙を100℃のお湯に直接入れると、熱くて飛び出し、やけどをするかもしれないが、逃げ出して無事だろう。それでは、室温の水に蛙を入れ1日に1℃のペースで温度を上げていったらどうだろう。蛙は日々の温度上昇をあまり感じないで、そして、ついにはゆで上がって死んでしまうだろう。変化量が少ないために変化に気づかずに、しばらくすると大きな問題が発生して取り返しがつかなくなることを、「ゆで蛙」現象という。

 「ゆで蛙」現象はさまざまなケースで発生している。例えば、研究開発(R&D)でも起こる。それは業種によらない。ある製品がヒットし、次々とグレード・アップが重ねられ、さらに製品が売れていく場合に発生する。この場合の研究開発では、今までにあったものに新しい機能や性能を付け加えていく。その製品はよく売れて好まれているのだから本質的な仕様は変えられないが、一方でグレード・アップ感を出さねばならない。こうして製品が少しずつの改良やグレード・アップによって変化していく。

 携帯電話機を思い浮かべれば、分りやすいだろう。最初は電話機能から出発し、メール機能、カメラ機能、GPS機能、テレビ機能(ワンセグ)、データ通信機能など、次々と新機能が追加されていった。ヒット製品が少しずつの改良・グレード・アップにより次々に売れていくという状況は、事業的には大変に望ましいと考えられる。大成功といってもよいくらいだ。しかし、そこに落とし穴がある。 

複雑すぎて制御不能に

 すなわち、多くの製品で「ゆで蛙」現象が起きる。このような製品では、過去の製品の機能は当然のごとく維持されながら、新機能が追加されて、どんどん複雑になっていく。それに伴って、コストは次第に上がっていく運命にある。最初のうちは、コストの上昇は気になるかもしれないが、すぐに「製品は売れているから、まあいいか」と考えるようになる。この段階では、まだ余裕がある。

 時間が経つと他社から競合製品が出てきて、対抗上、開発期間は短縮せざるをえなくなる。次から次への製品投入を迫られ、コスト対応は後回しになっていく。競争が比較的少なくて利益がでているうちは良いが、シェア争奪競争が激しくなると価格競争が発生する。そして、コスト高でもうけが出なくなったことに気付くのである。