液晶用の薄いガラス板を反射鏡に利用,大口径でも軽量の望遠鏡を可能に

反射鏡にガラス板を利用した望遠鏡と,製作した水戸第二高校3年の平山友紀子さん
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液晶パネル用の薄いガラス板を利用した反射鏡
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ガラス板を裏から吸引して湾曲させる
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 もう一つのガラス板を反射鏡に使った望遠鏡は,水戸第二高校3年の平山友紀子さんが中心になって製作した。

 反射望遠鏡でより遠くの暗い天体を観測しようとすると,大口径の反射鏡を使う必要がある。しかし,大口径の反射望遠鏡は大きくて重たく,移動も困難で扱いにくい。そこで考えられたのが,薄いステンレス板やガラス板を裏から吸引して湾曲させ,反射鏡として使用すること。「分厚いガラスの凹面反射鏡に代えて,ステンレス板やガラス板を使えば,軽くて移動も容易な望遠鏡が作れるのではないか」と,同校の先輩達が思いついた。しかも,吸引の度合いを変えることで,焦点距離が自由に変えられる。こうして始まった新発想の望遠鏡の試作を,平山さんは先輩から受け継ぎ,月のクレーターが見えるところまでこぎ着けた。

 平山さん達が試作を目指したのは口径40cmの望遠鏡である。可変焦点に対応する,スライド式の鏡筒の製作は概ねうまくいった。接眼部をスライドさせることが可能で,焦点距離は最短1.2m,最長2.7mまで対応できる。困難が待ち受けていたのは,ステンレス板やガラス板による凹面鏡の製作だ。

 凹面鏡は,口径40cmで底の浅い寸胴鍋に板を載せ,真空ポンプで鍋の中の空気を少し吸引して作る。2008年度,平山さん達はステンレス板とアクリル板,ガラス板の吸引実験をした。ところが,吸引しただけの凹面鏡は,外周に近いほど曲率が大きくなり,焦点が1点に集まらず,二重焦点になってしまった。しかも,ステンレス板とアクリル板は歪みがひどく,とてもガラス鏡に匹敵する望遠鏡になる可能性はなさそうである。唯一可能性のありそうだったのが,液晶パネル用の0.7mm厚のガラス板を使う方法だった。

 そこで,平山さん達はガラス板の凹面鏡に的を絞り,さらにいくつかの改良を試みた。それまでは,鍋の側面に小さな穴を開け,そこにビニール・パイプを通して真空ポンプで吸引していたが,新たにバルブを付けて低圧状態を保持できるようにした。さらに,ワセリンを鍋の縁に塗布してからガラス板を載せて吸引することで,鍋とガラス板の密着性を高めた。

 こうした主鏡自体の改良に加えて,絞りを新たに導入することで,平山さん達は二重焦点の問題を解決した。焦点距離が短くなる凹面鏡の外側の部分を絞りで覆ってしまい,焦点距離が長くなる凹面鏡の中心部分だけを使えるようにしたのである。絞りとして厚さ20mmの合板を使用し,その合板の中央を直径30cmの大きさに丸く切り抜き,その四方をネジで主鏡部分に固定した。

 こうして完成した口径30cmの絞りを使い,接眼レンズに虫眼鏡を使って,平山さん達は学校の近くのビルの看板を見てみた。すると,歪みは少しあるものの,拡大像がハッキリと見えたのである。さらに,口径20cmの絞りを段ボールで簡単に作り,使ってみたところ,歪みが減ることも確認した。後に,接眼レンズにルーペを使って月を観測し,月のクレーターも見ることにも成功している。

動画 液晶用の薄いガラス板を反射鏡に利用し,大口径でも軽量に(約47秒の動画)
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