入社から1年半の間にした私の仕事

 もっと具体的に説明するために,私自身の事例を紹介しましょう。私は昨年,「もしかして」という機能の改良プロジェクトを担当してきました。先ほど紹介した,「もしかしてこのキーワードで検索したいのですか?」というような“お助け機能”です。「あの機能はもう少し便利にならないか。もしかして,と表示しても何のことか分からない人がいるのではないか」と考えて,これを改良することにしました。

 まず,どのように改良するかを,関連する人達と議論しました。「もしかして」の裏側のアルゴリズムを作っている人や,英語版Googleの「もしかして」を開発している人とも話をしました。検索全般を担当しているエンジニアや,本社の副社長とも議論をしました。そうした人達とたくさん話をして,「このような機能を提供すれば良いのではないか」という方針を固めていき,実際の製品に組み込んでみたのです。

 実際の製品に組み込んだのは,漢字の変換忘れに関する機能です。例えば,「渋谷」というキーワードを入力したかったところ,最初の「渋」の字を変換し忘れてしまった場合に,「もしかして(漢字の)渋谷で検索したいのですか」というように表示する。そして,そこをクリックすれば,漢字の「渋谷」での検索結果を見ることができる。ただ,これだけだと「もしかして」の使い方が分からない人には,このメリットを提供することができません。そこで,新しい「もしかして」では,漢字の「渋谷」で検索した結果も2件表示するようにしまた。こうすることで,「もしかして」という機能が何か,より分かりやすくなる。さらに,「もしかして」という機能が理解できない人も,漢字の「渋谷」での検索結果にたどり着くことができるようになります。

 この機能を作ったのですが,作ってすぐにユーザーに提供するようなことはしていません。なぜかというと,こちらが何かを想定して機能を作ったとしても,もしかしたら思わぬ副作用があるかもしれないからです。Google社の検索サービスは,非常に多くの人が使っています。従って,何かを壊してしまうと,非常に大きな影響が出てしまいます。そこで,とても慎重に開発・製品化を進めています。

 まず,一部のユーザーだけに新しい機能を提供してみる。そのユーザーが,この機能を提供していないユーザーさんに比べて,「確かに便利に使ってくれている」ということが統計から分かったところで,すべてのユーザーに新しい機能を使ってもらえるようにします。幸い,今回紹介した機能については,世界中の言語で一部のユーザーに提供してみたところ,非常に便利に使ってくれていることが分かったので,この機能を世界中のグーグルで提供することになりました。なお,新しい機能を提供できたらエンジニアの仕事は終わりではなく,問題点を探して,改良を重ねています。