まじめに説明するとこの三つですが,何よりも学生のときにしておいたら良いと思うのは,“ものづくりの楽しさを体験することです。テーマは何でも構いません。ロボット,日曜大工の机,陶芸の花瓶など,何でも良いので毎年何かを作り続けてほしい。そのような経験を通して,出来上がったときの感動や,作るときの苦しみを体験してもらいたい。

 私は,学校から家に帰ったら,いつも何かを作っていました。中学校で「オームの法則」を習いますが,その前から抵抗やコンデンサを扱い,テスターで測定したりしていたから,数式で示されなくても法則の意味は感覚的に分かっていました。ハンダごてを使い,自分でプリント基板にコンデンサや抵抗をハンダ付けしていたら,エレクトロニクスはどんなものか分かります。

 シャープに入り,半導体レーザーを研究開発していたときには,電気炉は自分で作っていました。カンタル線を均等に巻いたり,均熱長がどれくらいあるか測ったりしながら作るのです。半導体レーザーというと難しそうですが,電気炉作りのような作業もあり,本当に楽しんでいました。このような「ものを作る楽しさ」を,ぜひ学生時代に体験してほしいと思います。

 その上で,先ほどの「体力」をベースに,「知力,気力,体力」の三つの力を培ってもらいたい。ものづくりには,この三つの力がとても大切です。

――三つの力について,もう少し詳しく説明してください。

 「知力」とは,知恵の働きや知的な能力のことです。いくら知識を持っていても,仕事に対する志や気力がないと,知力は生まれません。「気力」があって,はじめて知力が生まれるのです。そして,気力が充実している人は,必ず「体力」があります。逆に,知識先行の頭でっかちで,気力が無く,体力も弱々しい人では,継続的にものづくりに情熱を懸けていくことは難しいと言わざるをえません。

 若い人にとっては,知識も大切ですが,それを知力に変えるために気力や体力を充実させることがもっと重要です。だから,スポーツも大事です。特に球技であれば,仲間と一緒にボールを蹴ったり投げたりすることで,コミュニケーション力も培われます。体力が備わり,そして「あそこの学校に勝っていこう」という気力も生まれます。次は,「どのようにすれば相手に勝てるか」について研究し始めます。相手のピッチャーに対する知識を頭に入れるだけでなく,相手をどう負かしていくかの戦略を立てるようになります。知識が知力に変わります。

――枅川さんが「部下に迎えたい」と考えていたのは,どのような学生ですか。

 これはハッキリしています。まず,体力があることです。それから明るいこと。そして前向きな人。こういう人を部下にしたい。いつも朗らかで,間違いもいっぱい起こすけれども,前向きに志向していく。そして,集中力と気力,気迫を持っている人です。スポーツ界でいえば,タイガー・ウッズ選手の並外れた集中力,気力,気迫はすごいですね。あのような力を持つ人は,無条件に部下にしたいです。

 逆に部下にしたくないのは,いつも課題ばかり言う人です。何もせずに,「いやあ,そんなことしたら,こんな問題がある」とばかり言う人は,部下に迎えたくありません。それから評論家タイプの人。そして陰湿な人です。マネージするのもすごく難しい。できれば一緒に仕事したくないですね。