財団法人経済広報センターが7月27日に発表した第25回企業広報賞の大賞は、「ユニクロ」でお馴染みのファーストリテイリングでした。受賞理由は以下の通りです。

経営者自らが積極的に「トップ広報」を展開していることに加え、全社員が広報担当であるという考えのもと、全社員が一体となった広報を行っている。マスコミだけでなく、世界中の店舗、革新的なウェブサイト、マルチなチャネルを通じて、効果的かつグローバルに社会との情報の受発信を展開している。世界的な衣料品企業として、常に斬新なアイデアでチャレンジを続ける姿勢を伝える広報は、経済不況下において勇気付けられる。

 ユニクロというと、CEO(最高経営責任者)である柳井正氏自らによるトップ広報の印象が強いと思います。しかし今回、私も選考委員会のメンバーに加わって議論した結果、それだけではなく、「全社員が広報担当」という意識をグローバルに浸透させて、その具体的な取り組みが成果を上げたことが評価されました。これは社会・メディアへの情報発信や対話に加え、世界の従業員が企業理念とともに広報やマーケティングに対する意識を共有し、そこから価値やモチベーションを生み出せるような社内コミュニケーションを進めているからこそ実現できたことです。

 企業広報の役割は時代とともに多様化してきました。「経営トップとの意思疎通や全体戦略の立案」「メディア対応・IRなど情報の発信と適切な開示」「危機管理や緊急時の対応」「CSRなど社会貢献活動の推進」「企業ブランドのプロモーション」「製品広報などマーケティングとの連携」など多岐にわたりますが、対外的な活動と並んで極めて重要なのは「社内・グループ内のコミュニケ-ション戦略」だと思います。

経営はコミュニケーションなり

 企業理念や経営方針の周知徹底をはじめ、社内情報の共有、各部署にある潜在的な価値の吸い上げ、広義のイノベーションへの仕掛けなど、社内広報の役割もたくさんあります。そして、これを進めていくことこそが企業価値の向上や従業員のモチベーションのアップにつながるはずです。

 社内コミュニケ-ションを主導するのも広報担当部門にほかならいでしょうが、それだけでは不十分。やはり、広報担当と同じような意識を持った社員全体が日々、自分の持ち場、自分の役割、社会やステークホルダーとの接点の中で、経営上の広報という機能を意識することが求められます。「全社員が広報担当」という概念は、こういった意味から極めて重要な経営戦略とも位置づけられます。

 もちろん対外的な広報活動や社内コミュニケーションの体制が整っていても、中身がなければ企業価値は高まりません。ファーストリテイリングの場合、柳井氏が「普通の会社」や「安定的な成長」では決して満足せず、常に革新的な成長による高い目標を掲げてきたことが中身の充実につながってきたのでしょう。

 7月24日付の日経新聞朝刊1面トップは、「ユニクロ、大手百貨店に一斉出店~まず西武百や高島屋新宿店、『集客の目玉』、戦略かみ合う」というニュースでした。日経ビジネスでは6月1日号で「ユニクロ 柳井イズムはトヨタを超えるか」という特集を組んで、不況下でも業績が好調な同社の現状を分析しました。

 「経営はコミュニケーションなり」と言われます。その本意は、ステークホルダーなどへの対応と同時に、経営トップの考えがどれだけ社内に浸透し、社内のコミュニケーションがいかに活性化しているか、ということでしょう。それを実現できれば、社会や顧客、株主と従業員の価値が相乗効果として高まり、結果として企業価値全体を向上させるはずです。広報機能を広報担当任せにすることなく、全社員が同じ意識を持って「広報支援」できることこそが、経営力全体を底上げするエンジンになるのです。