トヨタ自動車にしてみれば、久々に何も気兼ねすることなく、全力でアクセルを踏み込める局面がやって来たのかもしれません。業績がかつてない程の大幅な赤字に落ち込む中では、「強すぎる」「勝ちすぎる」といった批判や妬みは起きないし、そもそも長年にわたって様々なプレッシャーをかけられてきた米国政府および米ビッグスリーが自ら沈んでしまったのですから、文句を言われる筋合いもない。7月16日付日本経済新聞朝刊の1面トップ「トヨタ、マツダにハイブリッド基幹装置を供給~10万台規模」という記事を見て、そんなことを思いました。

 トヨタはこの10数年以上、常に「強者の悩み」を抱えてきました。1995年の日米自動車摩擦では、ある意味で日本政府を超えるような外交力で立ち回ったし、米国での現地生産を拡大するための工場立地では共和党、民主党の両方に気配りしながら雇用創出に寄与するなど、様々な「貢献」を強く意識していたのです。利益を上げるだけではなく、「社徳」を身につけなければならない、と社内でも口すっぱく唱えていました。

 トヨタは以前、業績も事業も好調だったにもかかわらず、米格付け会社スタンンダード&プアーズ(S&P)から、格付けを引き下げられた経験があります。格下げの理由は「終身雇用制の採用など日本型経営では当然のこと」であり、いわば弱体化していた日本国の問題(ジャパン・リスク)をトヨタが背負った形。トヨタの国際競争力が日本国のそれを超えてしまう「国超え」状態になり、弱い日本国が企業のお荷物になっていた時代でした。トヨタはよろずの問題に対する駆け込み寺的な存在になり、常に米国からのプレッシャーを受けながらも、競争力を磨いてきたわけです。

 しかし、米国勢が自滅してしまった今、彼らは提携相手だった富士重工業やいすゞ自動車など日本勢の株式を売却し、トヨタが結果的にこれを引き受けました。日米協調のシンボルだった合弁事業であるNUMMIからも米ゼネラルモータ-ズ(GM)が撤退することになり、これもトヨタが後始末をすることになります。1990年代に深刻な経営不振に陥ったマツダは米フォード・モーターの傘下に入って再建しましたが、親分のフォードが凋落してしまい、ハイブリッド技術をトヨタに求めることになった格好。米国勢の出資を仰いで競争力を向上させた日本勢はドミノ倒しのように、トヨタに“親替え”しているわけです。