長らく仕事をしていると、どんな優秀な人でも仕事というのは一人では何もできないものだなあと痛感します。会社というのは人間からなる複雑なシステムで成り立っているので、例えば、鉛筆1本を売るにしても、鉛筆を設計する人、材料を調達する人、鉛筆を作る人、品質をチェックする人、梱包する人、営業する人、物流を管理する人、請求伝票を起こす人、その入金をチェックする人といった具合に、さまざまな仕事が連なっています。

 まるでチェーンのようにつながれた仕事と仕事を結ぶのが人間のコミュニケーション。このコミュニケーションのうまい人、下手な人で同じ仕事をしてもスムーズさがまるで違ってくるんです。一番多いのが自分の都合しか考えない人。悪気はないのですが、自分には甘く他人には厳しい。自分の前や後ろに仕事が連なっていることが見えない人です。こういう人と仕事をすると振り回されてくたびれます。でも、中には、仕事チェーンの中にいる自分の立ち位置をよくわきまえて、前の仕事をやっている人とか、後の仕事をやっている人がやりやすいように一声かけてくれる人がいて、そんな人と仕事をするとほっとした気分になるものです。

 ひろりんママが会社でもっともっと耳にしていい言葉だな、と思うのが「ありがとう」。日本人はシャイなのか、なかなかありがとうを言わないんですよね。お互い仕事なんだから「やって当然」という思いがあるのかもしれませんが、小さな「ありがとう」がどれだけその場の雰囲気をなごませることか。以前、学生時代に、米国のオフィスでコピー取りのアルバイトをしていたとき、ボスが「いつもきれいにコピーしてくれてありがとう」とにっこり笑ってくれました。単純なひろりんママは、その一言でそのボスの書類はなるべく読みやすく、キレイにコピーして、並べるように心がけるようになりました。

 概して米国人は、人にありがとうを言うチャンス作りが上手だと思います。ボスに感謝する「ボスデー」、秘書に感謝する「セクレタリーデー」はもちろんのこと、クリスマスにはオフィスをお掃除してくれるクリーニングレディやオフィスビルの警備員に心づけを渡したりします。米国のオフィス習慣を全面的に礼賛するわけではありませんが、誰かに何かをしてもらうことに対して、上手に「ありがとう」を言う習慣作りは、日本でももっと取り入れられてもいいのではないでしょうか。

 以前にも書きましたけれど、やさしい言葉遣いは皆さんが思う以上にオフィスのコミュニケーションに効果を発揮します。誰でも、怒ったような物言いをする人とはあまり口は聞きたくないし、ケンカごしの交渉をする人とビジネスを一緒にしたくはないですよね。イソップ物語の北風と太陽の話ではありませんが、相手の協力を得るには、まずは相手の心を開かせることが一番の近道なんでしょうね。

 ハリウッドのエージェントは、狙った俳優に出演交渉をする時、最初からビジネスの話はしないとか。まずは、趣味の話とか、お互いの共通の友人の近況とか、双方が同じ立場に立てる話をして、ある程度の共感・信頼関係を作り上げてから、ビジネスの話に移るのだとか。そちらの方が、とかく対立しがちなギャランティや出演条件などの話も、折り合い点を見つけやすいそうです。人間は、共感する部分がなければなかなか相手に協力しようとは思わないものですからね。

 まずは、第一歩として、誰かに何かをしてもらったら、必ず笑顔でありがとうを返す習慣をつけてみませんか。誰にでもできますし、今日いますぐからでもはじめられる小さなステップです。