このウェブ・サイトの編集に携わるようになってから、理工系の大学生や大学卒業直後の若い皆さんの声を耳にする機会が格段に増えました。私は入社してからのほとんどを“読者平均年齢40歳代”という雑誌の編集部で過ごしてきたので、取材で話す相手の方もほぼ社会人の“おじさん”ばかりでした。それはそれで楽しいのですが、久しぶりに学生や新入社員など若い皆さんと向き合うと、初めて知ることがたくさんあり、とても新鮮な気持ちになれます。

 例えば、就職活動の話題もその一つです。私は理工系の出身で、15年ほど前に就職した世代です。同級生の多くは、研究室や学科の教授が推薦する会社に就職していきました。教授の推薦があるため、文系学生のような就職活動をする必要はありません。その代わり、教授とつながりのある特定の会社にしか就職できません。それでも、多くの学生は教授の推薦を基に就職先を決めていました。

 ところが、今の状況は全く違うことを新入社員から聞かされて、大いに驚きました。知り合いの大学教授にも聞いてみたのですが、やはり、かつてのように教授推薦に従う学生は少なくなったと言います。「職業選択の自由」を訴える学生に、特定の会社への就職を促すような話はとてもできないというわけです。もちろん教授推薦で就職する学生もいますが、決して圧倒的多数派ではないようです。

 就職の内定を電話ではなく電子メールで連絡する会社がある、という話にもびっくりしました。時代の流れかもしれませんが、なんだか味気ないような気もします。

 「自分の学生時代とはずいぶん違うのだな」と驚くことが多いのですが、その一方で「あまり変わっていない」と感じることもあります。その一つが、表題の「大学での研究と、就職後の仕事の結びつきが見えません」という学生の悩みです。私の世代でも、同じ悩みを持っていた仲間がたくさんいました。ただ、本当かどうかは別にして、「大学で学んだ専門を生かせる場所」と「教授に学生の推薦を求める会社」は一致すると考えられていて、それで先述のように、多くの学生が教授推薦に従って就職していたようです。

 私自身も、大学での研究と就職後の仕事のつながりは、学生時代には全く見えていませんでした。それを知りたくて、技術雑誌の仕事ができる今の会社に入ったという一面もあるくらいです。

 今の会社に入り、電機メーカーや材料メーカーの技術者への取材を通して感じるのは、「大学での研究の内容自体は、就職後の仕事とのつながりはほとんどない。けれども、研究に取り組む姿勢や進め方を身につけることは就職後も役に立つ」ということです。化学系の学科を出て製薬会社の研究職に従事している同級生にも聞いてみました。やはり、「学生時代の研究内容を直接現在の業務に活用することはない」とのことでした。ただ、「当時身につけた研究の進め方やプレゼンの技術は入社後も役に立つことがある」と言います。

 私が以前の雑誌で担当していた液晶やプラズマ・ディスプレイなどのフラットパネル・ディスプレイ(FPD)分野でいえば、初めからFPD技術者を志していた人は決して多くありませんでした。そもそも産業と呼ばれるような規模に成長したのが、わずか15年ほど前だからです。従って、半導体や太陽電池、ブラウン管、画像処理などの分野から移ってきた技術者が大勢いました。そこからFPDの分野で花を開かせた技術者もたくさんいます。

 ですから、学生の皆さんは、現在の研究と将来の就職後の仕事の結びつきが見えなくても、あまり心配する必要はないと思います。無理に結びつきを見いだそうとするよりも、むしろ、視野を広くして様々なことに興味を持つことが大切です。社会は想像以上に広いものですし、しかも今は産業とも呼べないような小さな分野が将来大きく発展する可能性もあるからです。