前川が斬る(4)ビジネス・メソッドの特許性,いよいよ再考

  • 前川有希子(弁護士)
  • 2008/04/30 09:00

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 以前から議論の多かったいわゆるビジネス・メソッドの特許性(日本では通称,ビジネス・モデル特許)が,再び米国の知財関係者の注目を集めている。いわゆるBilski裁判において,米国特許審判所の判断を不服としたBilski氏が2008年2月に控訴したのを受け,連邦高裁がビジネス・メソッドの特許性について再考することになったからだ。

 Bilskiのケースに触れる前に,ビジネス・メソッドの特許性に関する米国裁判所の基本的な考え方や代表的な判例について紹介しておく。米国特許法101条では,発明が新規かつ有益な(1)プロセス,(2)機器,(3)製造,(4)組成物である場合は特許の対象になるとしている。すなわち,発明が上記4つのカテゴリーに当てはまらなければ特許の対象にはならない。米国特許法100条は方法(メソッド)もプロセスに含まれると定義しているものの,判例では抽象的概念や自然法則,数学的アルゴリズムに関するものは特許の対象としては認められないということになっていた。

 しかし1998年,StateStreet Bank & Trust Co. v. Signature Financial Group, Inc.において連邦高裁は投資信託の管理を行うデータ・プロセスのシステムは数学的アルゴリズムを用いているが,特許の対象になると判断した。その根拠は,用いられている数学的アルゴリズムが単なる抽象的アイデアを示すものではなく,それによって行われるデータの転送が具体的な金額を示し,かつ「有益,具体的,有形な結果」を生むアプリケーションだからである。ただし,この判例では純粋なビジネス・メソッド,すなわち,機器などと関連づけずに方法のみを記載した請求項自体が特許の対象になるとは判断していない。

 さらにAT&T Corp. v. Excel Communications, Inc.の裁判では1999年,数学的アルゴリズムを用いた「方法」に関して一歩踏み込んだ判断が下された。この裁判で問題になった発明は遠距離通話のためのメッセージ記録の方法である。連邦高裁はAT&Tの発明が特許の対象となるかどうかを判断するためには,数学的アルゴリズムを実行するための方法,たとえば,データのやりとりや処理の方法が具体的に示されているかどうかが焦点となるとした。

 2007年,Comiskey裁判においては,コンピュータなどの機器と結びつかない,純粋なビジネス・メソッドが特許の対象となるかどうかが審理された。このとき問題になった発明は,遺書や契約書などの法的文書が係わる調停の方法に関するものだった。連邦高裁はこの調停方法自体は単なるメンタル・プロセスであるとし,特許の対象にならないと判決を下した。さらに,こうしたビジネス・メソッドに関して,単なるデータ収集のためにコンピュータを用いるだけでは特許性を与えないとしている。一方で,抽象的アイデアや数学的アルゴリズムであっても(1)特定の機器と結びついている,または(2)物質を異なる状態あるいは物に変化させるのに用いられる場合,101条でいう「プロセス」に分類し,特許の対象とみなすことができるとした。

 そして,現在審理中のBilski裁判。米国特許審判所では,Bilski氏が特許申請した,固定価格で販売される商品に伴う消費リスクを管理する方法は特許の対象とならないと判断した。これを不服としてBilski氏は連邦高裁に上告した。米国特許審判所の審判の根拠は,問題となる請求項にはデータを処理する具体的な機器が記載されておらず,また,具体的にどのように各ステップを実行するのか記載されていないので,101条で示されている「プロセス」には当てはまらず,単なる抽象的アイデアでしかないということである。

 現在,連邦高裁における審理の焦点は
(1)Bilski氏の請求項が101条の下で特許の対象となるか
(2)あるビジネス・メソッドが,101条で特許の対象とされる「プロセス」に当てはまるかどうかを決める基準は何か
(3)請求項が心理的ステップと物理的ステップの両方を含む場合,心理的ステップを含むことを理由にその請求項は特許の対象外とされてしまうのか
(4)特許の対象となるためには,その特許の示す方法・プロセスが具体的な機器や物の物理的な変化と結びついていなくてはいけないか
(5)StateStreetおよびAT&T の判例を再考すべきか
という点である。

 StateStreetは,ビジネス・メソッド特許に道を開いた裁判といわれているが,実際に問題となったのはシステムに関する請求項であって,方法・プロセスの請求項に関して議論されたわけではない。また,数学的アルゴリズムを用いているといっても,具体的な数式が記載されているわけではない。しかし,システムを構成する機器がある程度具体的に示され,数的データを処理する方法もある程度具体的に記載されている。

 一方,Bilski氏の請求項は数的データを扱う方法を記載してはいるものの,米国特許審判所が指摘しているように,何ら機器を用いなくても実行できるように記載されており,また具体的なデータの処理方法が記載されていないので,特許として許されるとしたら,その特許がカバーする範囲は非常に広くなってしまうであろう。つまり,どんな機器を用いてどのようなデータのやりとりをしようがどのようにデータを処理しようが,その特許の範囲に入ってしまうことになる。

 もともと,米国特許庁はビジネス・メソッド特許を歓迎しない傾向があった。やはりここで,ビジネス・メソッドが特許の対象となり得るかを判断するためにどのような基準を設けるべきか検討し,明示すべき時期が来たといえ,どのような結論が得られるのか興味深い。