東北大,理論計算でPDPを長寿命化できる蛍光体の保護膜を設計

  • 三浦 悠一
  • 2005/06/10 00:00
 東北大学 大学院 工学研究科 応用化学専攻 宮本研究室 助教授の久保 百司氏らは,同研究室で開発した理論計算法を活用し,プラズマディスプレイ(PDP)の長寿命化につながる可能性のある蛍光体保護膜を設計した。現在,PDPの蛍光体保護膜としてはMgO(酸化マグネシウム)が主流である。これまで,面方位としてMgO(100)面が保護膜として適していると言われてきたが,久保氏らはMgO(111)面の方がより優れているという計算結果を出した。

 現在,PDPの寿命は液晶ディスプレイ(LCD)の2~3分の1と言われており,長寿命化が求められている。PDPは微細な蛍光灯の集合体の構造をしており,それぞれに電極を備えた2枚のガラス基板が,0.1mm程度の隙間をはさんで重ねられている。ガラス基板の隙間には,希ガスが充填され,電極に電圧をかけて放電させると紫外線が発生し,それによって蛍光体が発光する。しかし,放電によって強力な電磁場が生じて蛍光体と希ガスとの間に作製されたMgO保護膜の表面構造を破壊してしまう。長寿命化のためにはMgO保護膜の耐久性の向上させる必要がある。

 そこで久保氏らは,宮本研究室で開発した,Tight-Binding量子分子動力学法,古典分子動力学法,キネティックモンテカルロ法などを活用し,MgO保護膜の破壊過程を従来の5000倍の速度でシミュレーションし,高い耐久性を有するMgO保護膜の理論設計を行った。

 過去の実験報告では最も安定性の高い表面はMgO(100)面であると言われている。ところが今回,高速化量子分子動力学計算によってMgO(100)面よりも量子ドット構造を有するMgO(111)面が安定であるという結果が出た。この結果は,PDP用の保護膜としてMgO(100)面よりもMgO(111)面の方が適している可能性を示している。

 シミュレーションにはキネティックモンテカルロ法を用いており,それぞれMgO(111)面,(100)面,(011)面,(001)面に0.1eV/Åの電場をかける事で,破壊過程を解析した。結果として,MgO(111)面がこれらの中で最も耐久性が高かった。この理由として久保氏らは,MgO(111)面は破壊過程において自発的にナノドット構造を形成する特性を持っているからではないかと予想している。

 さらに,MgO保護膜の構造破壊ダイナミクスのより詳細な解析を実現する為に,久保氏らが開発したTight-Binding量子分子動力学法を活用し,構造破壊過程における電子状態ダイナミクスの解析を行った。さらに,Tight-Binding量子分子動力学法と古典分子動力学法を用いてXe(キセノン)照射下におけるMgO保護膜の破壊過程ダイナミクスを計算した。

 PDPは日本で誕生したディスプレイであり,世界中で市場が拡大している。現在よりも長寿命化になれば,おそらく普及の伸び率は高まるだろう。久保氏は今回の研究成果の一部を,5月に仙台で開かれたナノ学会 第3回大会のオーラルセッションで,「計算化学によるプラズマディスプレイ用保護膜の理論設計」と題して発表し,注目を集めた。(三浦 悠一)