技術経営戦略考

日本の人口減少とエネルギー需給

  • 西村 吉雄=早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズム・コース
  • 2011/11/21 08:00

これから日本の人口は急減する。高齢化も進む。したがって日本のエネルギー需要も減る。少なくとも中長期的には,日本のエネルギー需給に大きな心配はない。「FUKUSHIMAプロジェクト」(http://f-pj.org/)の調査結果の一つである。このプロジェクトは福島原発事故を民間有志で調査・検証し,本として刊行しようとしている。

 このプロジェクトに加わって活動する過程で,私にはいくつか気になることが出てきた。一つは,日本の人口減少を問題にする人が,ほとんどいないこと。人口が減れば,エネルギー需要も減るに決まっている。それが,どの程度のものか。これを見ておかないと,エネルギー政策もたてられないはずだ。もう一つ,二酸化炭素削減を疑わずに前提にする人が多いこと。クライメート・ゲートと呼ばれるようになったIPCCのスキャンダル以後,地球温暖化をめぐる世界の論調は大きく変化している。FUKUSHIMA プロジェクトでは,これについてもタブー視せずに調べようということになった。以下に現時点での調査結果の概要を紹介したい。

100年後の日本の人口は今の半分以下

  日本の人口減少は急激である(図1)。2010年12月に国土交通省は「国土の長期展望に向けた検討の方向性について」と題するレポートを発表した。このレポートによると,日本の人口は2004年の1億2784万人がピークだ。今後100年間に100年前(明治時代後半)の水準に戻っていく。

図1 日本の人口の長期推移 国土交通省国土計画局「国土の長期展望に向けた検討の方向性について」(2010年12月17日)から
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  人口予測には高位・中位・低位の三つの推計がある。最も人口を多く予測する高位推計で,2100年の日本の人口は6407万人,ピークの約半分である。中位推計(こうなる可能性が一番高い)で4771万人。ピークの37%だ。

  もう少し近いところ,2030年には1億1522万人,ピークから1262万人減少する。比率では約10%減だ。2050年にはピークから3269万人減って,9515万人になる。26%減である。以上,いずれも中位推計を用いた。

  この急激な人口減少は高齢化を伴う。医療・介護・年金など,これからの日本には難問が山積する。しかしエネルギー需給は,たいした問題ではなくなる。これだけ人口が減る以上,エネルギー需要も減るに決まっているからだ。高齢化もエネルギー需要減少に寄与するだろう。

  少子化対策によって人口減をくい止めることができるのではないか。こういう反論があるかも知れない。その効果は,あるとしても,だいぶ先,2050年ごろからだろう。

  これからの日本の人口減少は,しばらくは出生数減少より死亡数増加の効果が大きい。人口の多い世代が高齢化していくからである。団塊の世代が死亡年齢に達するころが,年々の人口減少数が最も多くなる。

  また出生数もしばらくは減少する。母親になり得る女性数が減るからである。これから25年ぐらいの間に,母親になり得る女性は,すでに生まれている。その数が減少することは,もうわかっている。その女性たち一人一人が多少多めに子供を生んだとしても,母親の人数が減っていくことによる出生数減少は抑えられない。

  この時期を通り過ぎると,様子が違ってくる。2040年を過ぎるころから,まず高齢化が止まる。団塊の世代がいなくなるからである。少子化対策がうまくいき,女性一人が生む子供の数が多くなれば,出生数増加が始まるかも知れない。そうなれば21世紀後半には,現在の予測よりは人口減少が緩やかになる可能性が,ないとは言えない。しかしその前,2030年代あたりに日本の危機がくる。

  2011年のいま,介護を受けている人の多くは「団塊の世代」の親の世代に属する。人口の多い団塊の世代が、はるかに人口の少ない自分たちの親の世代の介護を支えている。うまくいく構造である。これが2030年代になると,団塊の世代の人口大集団が介護を受ける側にまわる。それを支える世代の人口は,若くなるほど少ない。悲劇の構造だ。同じ悲劇が年金でも起こる。年金をもらう世代の人口は多くなり、年金を払う人口は減少の一途。この1930年代を、どう乗り切るか。

  人口減少は全国一様ではない。地方圏ほど急減する。首都圏人口は,それほど減らない(図2)。東北圏の人口は2050年には約40%減少する。同じ2050年に,全国の人口減少は26%である。これに対して,首都圏14%,東京圏は10%と減少幅が小さい。全体として人口が減少する過程で,東京・大阪・名古屋の都市圏に,人口は集中していく。

図2 圏域別人口の推移 国土交通省国土計画局「国土の長期展望に向けた検討の方向性について」(2010年12月17日)から 
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  以上の予測は,震災前の2010年のものだ。東北大震災と福島原発事故を経験した今後,東北圏の人口減少は加速するだろう。以前からの人口減少傾向に,避難の恒久化,放射能汚染を避けるための移住なども加わる。2050年人口が今の半分を下回る,あり得ないことではない。

  いわゆる過疎化も進む。限界集落や無人となる集落の増加もあり得る。町村単位での都市圏への移住なども考えられる。復興計画には,これらを意識せざるを得ない。

  これらの難問に比べれば,エネルギー問題は、はるかにマイナーである。後に見るように,エネルギー需要は確実に減少するからだ。

エネルギー需給に影響が出るほどには外国人は増えない

  「在日外国人が増えるからエネルギー需要は減らない。そうなるように外国人を増やすべきだ」。そう主張する方が少なくない。エネルギー需要が減らないほどに外国人を増やすとすれば,ということは人口があまり減らないほどに外国人を増やすためには,2030年までに1000万人,2050年までに3000万人,2100年には8000万人もの外国人を日本に導入しなければならない。2100年には外国人のほうが圧倒的に多い国になる。

  2010年末に日本に在住している外国人登録者数は約210万人である。2年連続で減少している。ただし10年前に比べれば,約45万人増加した(法務省入国管理局,「平成22年末における外国人登録者数統計について」,2011年6月3日)。10年間に50万人といった増加が今後も続いたとしても,2030年までの外国人増は約100万人に過ぎない。この程度の外国人増では,エネルギー需給への影響は,たかが知れている。ここ2年の減少傾向を考えれば,これすら現実的ではない。

  「少子高齢化により,日本では若年労働力が不足する。外国人労働者を増やさなければ乗り切れない」。この意見は根強い。たしかに,たとえば介護現場には,恒常的な労働力不足がある。しかしこれは,むしろ待遇の問題だろう。労働力の絶対数が足りないことが原因ではない。

  現実には,日本の若年層の失業率は高い。2010年平均で,15~24歳男性の失業率は10.4%,男性全年齢平均の失業率は5.4%である(総務省統計局,『平成22年 労働力調査年報』,2011年)。大学生たちも就職難で,学業そっちのけで就職活動に励んでいる。若年労働力不足はどこの国のはなしか。こういう状況のなか,外国人を大量に入れるという政策に,日本人の多くが合意するだろうか。

  少なくとも,エネルギー需給に影響が出るほどの外国人増加はない、そう考えて間違いはない。

原発事故前の政府機関の長期予測でもエネルギー消費は減る見通し

  「家庭のエネルギー消費は人口減少に対応して減るかも知れない。けれども日本のエネルギー需要は産業用のほうが多い。産業用は減らないだろう」。こういう考えもある。しかし日本のエネルギー消費は合計で,すでに減少気味なのだ(図3)。その減少幅は,家庭部門より産業部門のほうが大きい(図4)。2009年度の産業部門のエネルギー消費は1990年度対比でさえ減っている。加えて家庭部門も2005年度からは減っている(経済産業省資源エネルギー庁,「平成21年度(2009年度)エネルギー需給実績(確報)」, 2011年4月26日)。

図3 最終エネルギー消費の推移 単位はPJ(ペタジュール)。経済産業省資源エネルギー庁「平成21年度(2009年度)エネルギー需給実績(確報)」(2011年)から  
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図4 部門別最終エネルギー消費の推移 単位はPJ(ペタジュール)。経済産業省資源エネルギー庁「平成21年度(2009年度)エネルギー需給実績(確報)」(2011年)から
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  これらの減少が,いずれも「節電」以前の結果であることに注意しよう。2011年に日本人は節電に目覚めた。その日本人人口がこれから急減する。日本のエネルギー需要が2009年度実績よりも増えることは,まずあり得ない。

  ということは,原子力発電に依存しなくても,中長期的にはエネルギー需給の心配はないと言えるだろう。実は2011年の夏,日本の原子炉のうち稼働していたのは2割ほどだった。原発がフル稼働したときの総電力への寄与は25%くらいである。今年の夏の原発の寄与は10%に満たない。それでも夏のピークを乗り切れた。もちろん,節電は,特に産業部門では大変だったろう。しかし原発の寄与が10%に満たなくても,なんとかなる。それがわかってしまった。

  3.11原発事故以前の2010年8月に出た「エネルギー需給の長期見通し(再計算)」(総合資源エネルギー調査会策定)は,省エネルギー努力をしない場合(現状固定ケース),従来通り続けた場合(努力継続ケース)と,省エネルギー技術・製品を最大限導入した場合(最大導入ケース)の3通りを試算している。ここでいう省エネルギー努力とは,2011年に一般化した節電努力のことではない。エネルギー消費の少ない電気製品を使う,省エネルギーに有効な新技術を導入する,などの努力を指す。これらの努力を一切しない現状固定ケースは現実的ではないだろう。以下では努力継続ケースと最大導入ケースの試算結果を紹介する。

  2030年度の最終エネルギー消費は,2005年度対比で,努力継続ケースで5.3%減,最大導入ケースで16.2%減,という予測である(図5)。人口は約10%減だから,省エネ努力によっては人口減以上にエネルギー消費が減ることもあり得る。これが経済産業大臣の諮問機関の予測である。

図5 最終エネルギー消費の推移予測 総合資源エネルギー調査会需給部会「エネルギー需給の長期見通し(再計算)」,2010年8月から
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  繰り返すが,ここには節電努力は反映されていない。ということは,節電をしなくても中長期的にはエネルギー需要は減る。多少の節電努力があれば,人口減以上にエネルギー消費減となる可能性が高い(川島博之,『電力危機をあおってはいけない』,朝日新聞出版,2011年)。

  すでに述べたように,2011年夏における原子力発電の寄与は電力で10%以下,総エネルギーへの寄与では5%以下だ。2030年に原子力発電の寄与がなくなっても,なんとかなる。震災前の政府機関の予測データを用いても,こう結論できるだろう。

  となると,新エネルギー源の開発を急ぐ必要はないことになる。中長期的にはエネルギー需要は減るのだから,無理にエネルギー供給を増やす必要はない。再生可能エネルギー源にも,これは当てはまる。再生可能エネルギーの寄与が本格化するのは,どうがんばっても,だいぶ先のはなしだろう。そうであれば,その開発・使用を急ぐ必要はない。

  必要エネルギーが長期的には減る見通しのなかで,どのエネルギー源が「良い」エネルギーか。時間をかけて見極め,周辺技術・環境を整備しながら,適材適所でエネルギー源を使い分ける。中長期的には,こんな姿勢で十分ではないか。

二酸化炭素排出削減を優先する必要はない

  ところが前記「エネルギー需給の長期見通し(再計算)」の供給予測では,原子力発電の寄与を,電力供給において49%,1次エネルギー供給において21%と,高く見積もっている。二酸化炭素排出削減に高い優先順位をおいているためである。

  どのエネルギー源が「良い」か,という選択において,「二酸化炭素を排出しない」ことが近年は重視されてきた。しかし筆者は,そしてFUKUSHIMA プロジェクト委員のほとんどは,二酸化炭素排出削減を優先する必要はないと考えている。

  「二酸化炭素による温暖化」には2009年に事件が起こっている。いわゆるクライメート・ゲート事件である。IPCC報告書に「科学的根拠」を提供してきた英国の内部資料が流失した。温暖化を示すデータの多くが意図的につくられたものであることが,わかってしまったのである(深井有,『気候変動とエネルギー問題』,中公新書,2011年)。以後,温暖化をめぐる世界の論調は大きく変わる。この事情については,別稿で紹介する機会があるだろう。ここでは結論をごく短く要約しておく。

  1. 二酸化炭素が地球温暖化の主因とする説の科学的根拠は弱い。
  2. 仮にその説が正しいとしても,温暖化には功罪両面あり,罪の方が大きいとは現時点では結論できない。
  3. したがって,経済的・社会的なコストをはらってまで二酸化炭素排出削減に努力する必要は,少なくとも現時点では,ない。

  震災後の日本の財政事情はきびしい。復興のための資金需要は緊急である。さらに先に述べたように,介護,年金など,資金はいくらあっても足りない。そのために日本政府は所得税も消費税も増税しようとしている。こんな状況のもとで,根拠も功罪も不確かな温暖化問題を優先する必要はない。これがFUKUSHIMAプロジェクトの基本姿勢だ。

  二酸化炭素排出削減を優先しないとなると,それを理由に原子力発電を選ぶ必然性はない。同じく再生可能エネルギーを選ぶ必然性もなくなる。他の利害得失がエネルギー源選択の理由となるはずである。

  ちなみに人口減少と高齢化は二酸化炭素排出減少に寄与する。2050年には,何もしなくても25%程度の二酸化炭素減少となる可能性が高い。

ここ数年のピーク電力需要は天然ガス発電で乗り切る

  中長期的には日本のエネルギー需給に心配はない,と述べてきた。しかし,ここ数年のピーク電力需要は別である。これを節電だけで乗り切るのは,地域・季節によっては難しいだろう。これを解決するには,最新の天然ガス発電所建設が現実的である。東京都の試みは理にかなっている。

  天然ガスにかぎらず,化石燃料を使う発電は,近年は悪者扱いされてきた。理由は二つ。一つは二酸化炭素排出である。もう一つは化石燃料枯渇の心配だ。

  二酸化炭素排出を理由に化石燃料を排除する必然性はない。これはすでに述べた。二つ目の化石燃料の枯渇,これも現実にはないと言っていい。

  あと40~50年もすると石油は枯渇する。40~50年前から,いつもこう言われてきた。この点,高速増殖炉の実現時期と似ている。50年後には高速増殖炉が主役になる。50年前からずっと,こう言われている。どちらも,いつまでたっても,現実には起こらない。

  化石燃料の埋蔵量は採掘コストの関数だ。「お金さえかければ以前には考えられなかった所で石油が採れる」(田中伸男,「ピークオイル」,『日本経済新聞』夕刊,2009年1月30日付)。石油の値段が上がれば,お金をかけて採掘してももとがとれるだろう。だから採掘の難しいところにも採りに行く。一方石油の値段が上がれば,他のエネルギー源,たとえば太陽電池の価格競争力が増す。太陽電池の普及が促進される。そうなると石油の需要が減る。枯渇時期は先に延びる。こうして,いつまでたっても枯渇しない。

  石油が石炭に代わって広く使われるようになった理由は,石炭が枯渇したからではない。「石器時代は石がなくなったから終わったのではない」(田中伸男,「石器時代はなぜ終わったのか」,『日本経済新聞』夕刊,2009年2月6日付)。

  新しい化石燃料も次々に見つかっている。オイルサンド,メタルハイドレード,オイルシェール,などなど。米国内では岩盤層にある天然ガスを取り出す新技術が広がり,「シェールガス革命」と呼ばれるほどに,天然ガス価格が下がっている。米国は天然ガス輸出を原則として認めていない。エネルギー安全保障の観点からである。しかし対日輸出解禁の可能性も高いという(桝淵昭伸,「米国産LNGが上陸する日 電力コスト大幅低下も」,『日本経済新聞』電子版,2011年9月30日付)。