ラン藻を利用したバイオ燃料生産の仕組み
ラン藻を利用したバイオ燃料生産の仕組み
(図:東京大学のプレスリリースより)
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 ラン藻は2つの酵素AARとADOを用いて炭化水素を生産する
ラン藻は2つの酵素AARとADOを用いて炭化水素を生産する
(図:東京大学のプレスリリースより)
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 ラン藻によって炭化水素の生産効率が異なる
ラン藻によって炭化水素の生産効率が異なる
(図:東京大学のプレスリリースより)
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 海洋性ラン藻と淡水性ラン藻によって生産される炭化水素の種類が異なる
海洋性ラン藻と淡水性ラン藻によって生産される炭化水素の種類が異なる
(図:東京大学のプレスリリースより)
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 東京大学は2016年11月1日、ラン藻による炭化水素の生産に関わる酵素のアミノ酸配列を変えることで、炭化水素の生産を効率化でき、生産される炭化水素の長さを調節できることを発見した。再生可能エネルギーであるバイオ燃料の生産の効率化や、凍りにくい燃料の生産に応用でき、地球温暖化防止に貢献すると期待される。

 藻類の一種であるラン藻は、大気中の二酸化炭素を吸収して光合成を行い、軽油に相当する炭化水素を生産できる。ラン藻による炭化水素の生産には、アシル(アシル輸送タンパク質(ACP))還元酵素(AAR)と、アルデヒド脱ホルミル化オキシゲナーゼ(ADO)という2つの酵素が関わることが分かっている。これまで酵素ADOの立体構造やはたらきは明らかになりつつあるが、酵素AARの詳細なはたらきは未解明だった。

 今回、酵素AARを構成するアミノ酸配列を変えたときに、酵素のはたらきがどのように変化するのかを調べた。ラン藻には多くの種類があり、それぞれが持つAARは、互いに少しずつ異なるアミノ酸配列から構成されている。そこで、代表的な12種類のラン藻を選択し、それぞれのAARのはたらきを比較した。

 その結果、酵素AARのアミノ酸配列が異なると、炭化水素が生産される効率(活性)が大きく異なり、生産効率の高いAARと、生産効率の低いAARがあることが明らかになった。効率の低いAARのアミノ酸配列を人工的に改変して、生産効率を約12倍向上させることにも成功した。

 さらに、酵素AARのアミノ酸配列が異なると、生産される炭化水素の種類も異なることが明らかになった。海洋性ラン藻のAARでは、主に短い炭化水素(炭素数15)が生産されたのに対し、淡水性ラン藻のAARでは、主に長い炭化水素(炭素数17)が生産された。このように、AARのアミノ酸配列を変えることで、生産される炭化水素の長さを調節できることを見出した。

 今回発見した生産効率の高い酵素AARを用いることで、ラン藻などの生物を用いたバイオ燃料の生産を効率化できると期待される。また、炭化水素の長さを短くすると凝固点が下がり、凍りにくくなる。今後は、AARのアミノ酸配列を改変して、生産される炭化水素をさらに短くすることで、凍りにくい寒冷地用の軽油燃料を生産できると期待される。

 今回の研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業個人型研究さきがけ、文部科学省と日本学術振興会の科学研究費補助金、ホクト生物科学振興財団助成、矢崎科学技術振興記念財団研究助成、ゼネラル石油研究奨励財団研究奨励助成の支援を受けた。研究成果は、オープンアクセス誌「Biotechnology for Biofuels」オンライン版に2016年11月1日付で掲載された。