「史上最もイノベーティブで世界にポジティブな改革をもたらす大会」。これは開催を約2年後に控えた東京オリンピック・パラリンピック競技大会(東京2020大会)のビジョンだが、それを実現する1つの技術の採用が決まった。NECの顔認証システムである。

東京2020大会で全会場の関係者エリアのゲートに設置されるNECの顔認証装置
東京2020大会で全会場の関係者エリアのゲートに設置されるNECの顔認証装置
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 アスリート、運営スタッフ、ボランティア、報道関係者など30万人以上の大会関係者が、43の競技会場、選手村、IBC(国際放送センター)/MPC(メインプレスセンター)といった全会場の関係者エリアのゲートでの本人確認に使用される。「顔写真を登録したすべての関係者に対し、すべての会場で自動認証する技術の採用は史上初である」(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会警備局局長の岩下剛氏)。

警備の難度が高い大会

 東京2020大会は、過去の大会と比較して警備の難度が高い。「東京大会」とは言え、実質的に北海道から静岡県まで会場が広域に分散し、競技場が集中するエリアである「パーク」が存在しない。パークは通常フェンスで囲われているため、ゲートでいったんスクリーニングを受ければ、あとは競技会場間の移動は自由だが、東京2020大会ではパークがないため競技会場間の移動時には毎回スクリーニングが必要になる。さらに「猛暑も予想され、首都機能との共存のために長い待ち行列も作れない」(岩下氏)。

 このため、高精度の本人確認でなりすましを防止するなどセキュリティーが高く、しかも現場の混雑を招かないスムーズな入場を実現する顔認証システムの導入が最適解だったという。

従来比2.5倍のスループット

8月7日の記者発表会に登壇した、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会警備局局長の岩下剛氏(左)とNEC執行役員の菅沼正明氏(右)
8月7日の記者発表会に登壇した、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会警備局局長の岩下剛氏(左)とNEC執行役員の菅沼正明氏(右)
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 東京2020大会では、NECの顔認証AI(人工知能)エンジン「NeoFace」を活用した顔認証システムを導入する。同社は入場ゲートの各レーンに設置する顔認証装置とクラウドのシステム側に実装する顔認証エンジンを提供する。

 仕組みはこうだ。アスリートなど大会関係者はIDカード作成時に顔写真を撮影、それが大会のシステムに登録される。IDカードは本人情報を記録したICチップを内蔵し、大会関係者は会場内での携行が義務付けられている。

 レーンに設置される顔認証装置は、カメラとディスプレー、ICチップの読み取り機を内蔵する。入場者がゲートを通過する際にはIDカードを同装置の読み取り機に着券する。同時に装置は内蔵するカメラで入場者の顔を撮影する。すると、装置側で撮影した写真とデータベースに登録された顔写真を、顔認証エンジンで照合する。本人でない場合はディスプレーに警告が表示される。