日本マイクロソフトの相原氏
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オークファンの得上氏
オークファンの得上氏
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 「医療ビッグデータ・サミット2016秋」(2016年9月14日、主催:日経デジタルヘルス)では、日本マイクロソフトなど2社が「コネクテッドヘルスケアを実現するクラウド ~より予測可能な医療へ、医薬品の有害事象は機械学習でわかるのか~」と題して講演した。

 まず、日本マイクロソフト パブリックセクター統括本部 ソリューションスペシャリストの相原健一氏が登壇。クラウドサービスと機械学習の関係について語った。

 同社が提供しているクラウドサービス「Azure(アジュール)」は、同社が管理するデータセンター上でソリューションの構築や管理などができるサービスだ。60以上のサービスがあり、どの機能を何時間使うといくら、といったように従量制の料金体系になっている。

 その中の一つに、機械学習を利用した機能がある。機械学習は学習する際に膨大なサンプルデータを使用する。その元となるのがビッグデータだ。温度や湿度など従来から蓄積されているデータやIoTによって新たに得られるようになったデータ、さまざまな組織が提供する有償・無償のデータなど、近年は扱えるデータ量が増えているという。

 データ量が増えると、サーバーに集めたデータを取り出すだけで時間がかかってしまう。そのため、高速化のためにデータセンター内で処理する、データセンター間でやりとりをする、といった運用が必要となる。クラウドにあるデータをクラウドに置いたまま処理するというニーズが増えており「クラウドとビッグデータは切っても切れない関係になっている」(相原氏)とした。

 続いて登壇した、オークファン 執行役員 技術統括部長の得上竜一氏は、Azureの機械学習を医療分野に活用した実例を紹介した。同氏が利用したのはAzure Machine Learningというサービス。条件を設定して機械学習のモデルを構築し、テスト、実運用までWebブラウザー上の操作でできるというものだ。

 このサービスを使い、横浜市立大学大学院生命医科学研究所プロテオーム化学薬学博士、特任教授の太田悠葵氏と共同で、バイオ医薬品の有害事象予測のモデルを作成した。従来、投薬の反応に関するデータはPMDAやFDAが公開するデータを使用していた。しかし特定の薬を組み合わせた場合に起こる有害事象もあるため、投薬履歴や病歴などの臨床データも組み合わせて個人に合わせた薬を処方する方が望ましい。

 ところが履歴がまったく同じ患者はほぼおらず、新しい薬も次々登場することから実現は難しかった。そこで機械学習を利用して有害事象を予測するシステムを作った。事象に重み付けをして重篤な組み合わせを抽出し、それを避けることで安全性を高めた。

 クラウドサービスが登場するまでは、機械学習を導入するためにはサーバーやコンピューターなどで数千万円から1億円といった膨大な初期費用が必要だったという。それに対し、今回の研究でAzureの機械学習機能を利用した費用はおよそ1万円。得上氏は「限られた予算の中で成果を上げることができた。クラウドサービスなのでどこからでもアクセスでき、かつ誰もがアクセスできないというセキュアな環境で研究を進められた」と語った。

 最後に相原氏が再度登壇。「クラウドサービスを利用することで医療従事者の生産性を上げることができるのではないか」「電子カルテや地域医療連携などシステムを広げいく際のプラットフォームとしてクラウドを利用できるのではないか」と語り、講演を締めくくった。

■変更履歴
記事初出時、横浜市立大学大学院の太田悠葵氏のお名前を大田悠葵氏と間違って記載しておりました。お詫びして訂正します。記事は修正済みです。