キャッシュフロー経営という視点では、「在庫」は調達したお金をモノにして寝かせている状態である。調達したお金にはコストがかかる。銀行からお金を借りると金利を支払う必要があるし、自己資本でも配当を支払わなければならない。このようなコストを「資本コスト」という。お金を「在庫」にしているだけでこのようなコストがかかる。

 加えて具合が悪いのは、在庫を持つと倉庫代や余分な物流工数、棚卸しのための工数をはじめとした費用もかかること。調達したお金を使って新たなお金を生み出すどころか、在庫にしておくことでさらに余分なお金がかかるのだ。

 一方、在庫を減らせば、減らした分だけキャッシュは増えるし、余分な費用も減らせる。お金に敏感な経営者であれば、「ミニマム在庫」で運営できるように指揮するのは当然のこと。「いかに少ない元手でお金を増やすか」という商売人の基本からすると、在庫にしてお金を寝かせるくらいなら、もっとキャッシュを生み出すものにお金を使うべきである。

仕事の質が低いから在庫が増える

 ところで、筆者は支援の相談を受けた企業を訪問する際、決算書が入手できる場合は、事前に棚卸資産の回転日数(棚卸資産を1日の売上高で割ったもの。何日分の在庫を持っているかを示す)を把握することにしている。棚卸資産の多い企業は、キャッシュをムダにしているというだけではなく、仕事の質が低く、課題が多い企業と言えるからだ。

 在庫が増える原因はいろいろある。例えば、販売見通し精度の低さ。見通し精度が低いと、欠品を防ぐために在庫を増やさなければならない。精度が低い原因の1つは、営業部門が客先の在庫状況や需要動向・販売施策などを把握できていないためである。また、生産のリードタイムが長く、かなり前倒しで販売見通しを出さなければならず、その結果として精度が低くなることもある。

 工場が計画通りに生産できないような場合も、在庫でカバーしようとして、これまた在庫が増える。計画通り生産できないのは、部材が計画通り納品されなかったり、設備トラブルや品質トラブルがあったり、能率が低かったりするためである(図1)。例を挙げるとキリがないが、つまり、いずれも営業や生産の「仕事の質」の低さが、最終的に「在庫」という形になって表れているということなのだ。

図1 生産部門において在庫が増える原因
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図1 生産部門において在庫が増える原因
計画通りに資材を調達できなかったり、設備や品質のトラブルが多かったりして計画通りに生産できず、安全のために在庫を抱えがちとなる。(出典:高橋功吉、『ものづくり経営入門』、日経BP社、p.62)

 前述したように、キャッシュフロー経営という視点からは、在庫は少ないほどよい。しかし、それを実現するには質の高い仕事が求められるのである。