決算書に示されている費用項目の中でお金の支払いが伴わない費用がある。それが「減価償却費」。よく耳にする言葉だが、読者のみなさんはその経営的な意味を真に理解されているだろうか。

利益を出すために減価償却しない?

 筆者がある中堅企業を支援していた時のことだ。決算書を見せてもらうと適切に減価償却費が計上されていなかった。銀行から融資を受けていたことに加え、大手企業と取り引きしていたため、体面上赤字では具合が悪いとの思惑から、何とか形の上だけでも黒字にしようと減価償却費を過小計上していたのだ。

 しかし、キャッシュフロー経営という観点からは、このような操作には全く意味が無い。損益計算書(P/L)上は減価償却費を「費用」として計上するが、実際にはお金は出ていかないので、減価償却費分はキャッシュが残る。ということは、減価償却費を減らして利益を増やしても、キャッシュそのものが増えるわけではない。逆に、利益を増やすことで、支払うべき税金が増えるとキャッシュが減ることになりかねない。

 実際、銀行も見せかけの利益に騙されるほど甘くはない。減価償却の不足金額をチェックして利益の実力を把握しているので、そのようなことをしても意味はなく、むしろ利益をごまかそうとしていると受け取られかねない。

 何度も述べているように、経営の基本はいかにお金を有効に使って新たなキャッシュを生みだすかにある。キャッシュフロー経営という視点からは、過少な減価償却による償却不足は適切に営業キャッシュフローが確保できないということで問題なのだ。