ゼビオグループを中核事業として支える屋台骨は、「スーパースポーツゼビオ」をはじめとするスポーツ専門店のリテール(小売店)事業だ。同業のヴィクトリアやゴルフパートナーの買収などを進めてきた同グループは、2017年3月期にグループの売上高で、長く業界トップの座にあったアルペンの売上高(同年6月期)を初めて上回った。
ゼビオグループが考える新しいスポーツビジネスの姿を、キーパーソンに聞く連載の第5回。今回は、スーパースポーツゼビオを展開するゼビオの加藤智治社長に、リテール事業から見たゼビオアリーナや3x3などの取り組みや、スポーツリテールの将来像について聞いた。
石井 宏司=スポーツマーケティングラボラトリー)
自ら立証していきたい
―― 前回までは、クロススポーツマーケティング(XSM)の中村考昭社長に、ゼビオアリーナや3x3などの取り組みについて聞いてきました。ゼビオグループの中核事業であるスポーツ専門店を経営する立場から、アリーナ事業などの取り組みをどのように見ているかを教えてください。
加藤 「スーパースポーツゼビオ」「ヴィクトリア」「ゴルフパートナー」などのスポーツリテールの事業と、XSMを中心に展開するスポーツマーケティングの事業は、ゼビオグループが打ち出している「スポーツコングロマリット構想」の両輪です。
スポーツリテール事業は、グループ全体の売り上げの大部分を占めています。一方、これからのスポーツの需要を創造する取り組みを手掛けるのが、スポーツマーケティングの事業です。
スポーツマーケティングのチームがイベントのアクティベーションを展開することで、スーパースポーツゼビオやヴィクトリアといったグループの店舗に集客する流れを作り出せると考えています。スポーツマーケティングでは、例えば、八戸市に建設予定のアリーナでは、地域密着でスポーツのコミュニティーづくりに挑んでいます。世界最高峰の障害物レース「スパルタンレース」のような新しいタイプのスポーツも、体を鍛える、鍛錬することを表現する場として可能性は大きい。従来からある野球やサッカーのような競技でも、草野球の日本一決定戦「MLBドリームカップ」を運営したり、小学生対象のサッカー大会を協賛したりしています。
スポーツイベントへの協賛は、歴史的には費用対効果が見えにくい取り組みです。タニマチ的な側面があるので、これまでは“何となく”のイメージアップの方法と考えられてきましたが、ここにきてマーケティングの費用対効果が具体的に問われる時代になっている。その点については、まだ各社が模索している段階だと思うんです。
もちろん、オリンピックやプロ野球、プロサッカーのような大きな協賛の対象は存在していて、そこでは日本を代表するような企業がある種の社会貢献も含めたスポンサーシップを手掛けています。でも、スポーツというコンテンツは本来、それほど大きくない企業でも、自社のブランディングや販売、集客のために、通常の媒体よりも効率的に有効活用できるはずです。
そのことを我々は自ら立証していくべきだと考えています。ゼビオグループとして協賛したイベントを、スポーツマーケティングのチームが料理することで、きちんとリテール事業に還元されていく。その成功モデルを構築できれば、ユニークなスポーツマーケティングを提案していけるようになるでしょう。
―― なるほど。これまでの取り組みの中で、リテールとスポーツマーケティングの相乗効果をどのように感じていますか。
加藤 正直なところ、まだ道半ばだと考えています。イベントに集まるアスリートや子ども、親御さんたちに、どのような訴求をすると店舗に足を運んでもらえるか。こうしたミクロな消費者心理を捉えた施策までは到達していないように感じています。リテールとスポーツマーケティングの両方が互いに努力していく必要があるでしょう。
今後、リテールとスポーツマーケティングの関係をさらに深化させていくためには、両者の間をつなぐデジタルツールの仕掛けが大きな役割を担うようになると思います。スポーツを楽しむ人やアスリートの横に、常にあるものを考えると、やはり今の時代はスマートフォンのようなデジタルツールですよね。何かの商品を買いたい、探したいと思った時に、ゼビオが一番に選ばれるような関係を構築する。デジタルは、顧客とのエンゲージメントを強化するツールになっていくでしょう。