ムダやロスを徹底的に削減することが、強い工場づくりに重要な役割を果たしている。そう前回までに述べてきた。ムダ・ロスの徹底削減の考え方が浸透していない職場では、まずはメンバーにその教育を施さなければならない。ムダ・ロスが見えていない職場では、「見える化」から取り組まなければならない場合もある。
こう説明すると、ムダ・ロスの徹底削減について「まわりくどく時間のかかる活動」と誤解されることがよくある。「我が社の改善活動は、待ったなしの緊急事態だ。ムダ・ロスの徹底削減? そんな悠長な活動をやっている場合ではない!」。ある企業の経営者が語ったこの言葉に同意する人は多い。
加えて、「ムダ・ロス」という言葉の語感からか、効果が小さく限定的なイメージを持つ人も少なくない。別の経営者の言葉が印象に残っている。「ムダ・ロス改善? そんな二階から目薬をさすような取り組みに効果があるのか?」。
だが、本当にそうなのだろうか。
強い工場づくりのポイント
工場の生産性にはさまざまな定義があるが、基本的な考え方は「Output(出来高)÷Input(投入)」だ。何をOutputとし、何をInputとするかは、それぞれの企業や工程、目的によって異なる。だが、生産性を高めるとは、すなわち「最小のInputで最大のOutputを得ること」で間違いない。
この「Output÷Input」の考え方に基づいて生産性を高めるために、多くの工場は設備の改善や増強、人員の増加などを行い、同じ時間でより多くの処理ができるような改善の取り組みを実施している。また、同じ生産量であれば、より短時間で生産が完了できるような改善にも取り組んでいる。
ここで、工場の生産を「血管を流れる血液」に見立ててみよう。生産性を高めるというのは、次のようなイメージだ。
[1]身体を鍛えて心臓や血管を強くし、より多くの血液を流せるようにすること。
⇒生産性を改善して、同じ設備でもより多くの生産ができるようにすること。
[2]血管を太くし、より多くの血液を流せるようにすること。
⇒設備や人員を増強し、より多く生産できるようにすること。
こうしたことを実現するために、企業では工程や設備の改善、増強などに取り組んでいる。ではその中で、生産現場におけるムダ・ロスの削減はどのような意味を持つのだろうか。実は、血管を流れる血液に例えた生産性を高める取り組みの中で、ムダ・ロスの削減は極めて重要な役割を持っている。そこで「あるある事例」を見ながら考えてほしい。