本誌のインタビューに5年ぶりに応えた郭氏。そこで語ったのは、Samsung社に対する強烈な対抗心と日本企業へのラブコールだった。(聞き手は大槻 智洋=威志市場研究、本誌特約記者)

(写真:加藤 康)

 米Apple社 CEOのSteve Jobs氏が現在の民生機器産業の「表の顔」ならば、Terry Gou(郭台銘)氏は「裏の顔」である。Gou氏は他を圧倒するEMS/ODM企業、台湾Hon Hai Precision Industry(鴻海精密工業)社を一代で築き上げた。連結売上高は、2010年に8兆3297億円。民生機器やその部品を手掛ける企業でこれを超えるのは、韓国Samsung Electronics社以外に見当たらない。

 Gou氏、そしてHon Hai社は受託という業態から、自らが目立つことを嫌う。地元の台湾で記者会見に似た催しを開くのは年に2回ほど。個別取材の依頼は原則すべて断る。しかし今回、本誌は2006年以来2度目のインタビューをすることができた。

 実現の背景には、むろんGou氏の狙いがある。2006年時点では、パソコンやネットワーク機器からテレビ、カメラといった家電分野での事業拡張を、知名度を高めることで容易にすること。そして今回は、中国における「人口ボーナス」の終結という荒波を、日本企業と共に乗り越えることを目的にしていると考えられる。人口ボーナスとは、豊富で安価な労働力が高度経済成長をもたらすことを指す。

 「人件費の安さではなく、人材の価値によって未来を切り開かなければならない」。Gou氏は、2011年6月8日に台湾のHon Hai本社でこう話した。同社は現在、四川省成都市や重慶市、河南省鄭州市といった中国内陸部に巨大工場を建設中である。その狙いは、人件費の低減ではない。人件費は、数年間で深セン市並みになるからだ。「実家の近くで働けることによる、人員定着率の改善」「地方の天然資源の活用」「中国内における家電販売時のコスト低減」の三つが狙いである。

『日経エレクトロニクス』2011年8月8日号より一部掲載

8月8日号を1部買う