【走る 曲がる 止まる】トロイダルCVTは「ハーフ」か「フル」か? 新型ミッションの熱き戦い
東京モーターショーの北ホール、光洋精工のブースに英トロトラック社がフルトロイダルCVT(無段変速機)の試作機を持ち込んだ(図1)。トロイダルCVTは排気量の大きな自動車向けの無段変速機で、後で詳しく述べるように、機構の中に使われているディスクの形によって、ハーフとフルの2種類がある。実用化では、1999年に日産自動車が高級乗用車の「セドリック」と「グロリア」に世界で初めて載せたハーフトロイダルが一歩先行していた。しかし、トロトラック社の新しいフルトライダルCVTの実用化が見えたことで、「ハーフvsフル」の戦いが熱を帯びてきた。

図1:光洋精工のブースにあったフルトロイダルCVT。なお、展示物はCVTとしての動作説明が目的であるため、覆いを省略してある。
この展示は光洋精工を挟むようにブースを並べた日本精工、NTNの両社にショックを与えたはずだ。3社は軸受け、ジョイントなど扱う製品が共通で、シェアに大きな差はない。ブースの規模も似たようなもので、この一角は妙に緊張感があった。
▼トロイダルCVTの進む道
大型の変速機ではトロイダルCVTがこれからの本命だと言われる。現在主流のベルトCVTは今のところ排気量3.5リットルが上限、しかもFF(前輪駆動)車向けだ。4リットル、5リットルという大きなエンジンを積んだFR(後輪駆動)車にはトロイダルが向く。これはガソリンをガブ飲みする車種だから、燃費を良くする意義は大きい。ローラーがディスク上を転がるため、転がり軸受けと共通の技術が必要になる。このため軸受けメーカーが開発の主導権を握ることが多い。99年に実用化したハーフトロイダルCVTに関しては、部品を供給した日本精工、それを変速機に組み上げたジヤトコ、さらにクルマに採用した日産自動車の3社が揃って「ウチが主役」と言い張っていた。誰もが本気でそう思うような役割分担なのだろう。
トロイダルCVTは入力、出力のディスクを向かい合わせ、間にパワーローラーを挟む構造(図2)。ローラーの向きを変えると、ディスクとローラーの接触する位置が変わる。つまり有効径が変わるから、変速比も変わる。ディスクが外側まで延びているのがフルトロイダルCVT、内側半分だけなのがハーフトロイダルCVTだ。

図2:トロイダルCVT。(a)がフルトロイダル、(b)がハーフトロイダル。
フルトロイダルには1つ問題がある。図2をご覧いただきたい。ハーフトロイダルのローラーは球の一部を切り取ったような形をしている(図は断面図)。ローラーが回転すると、回転軸に近い側は径が小さく、遠い側は径が大きい。ディスクも同じように回転軸に近い側は径が小さく、遠い側は径が大きい。速度で言うと、ローラーの速い部分がディスクの速い部分と接し、ローラーの遅い部分がディスクの遅い部分と接する。これはうまくいく。
ところがフルトロイダルのパワーローラーは円板型に近い。回転する時の有効径は上も下も一緒、ところがディスクはやはり回転軸に近い側は径が小さく、遠い側は径が大きい。つまり場所ごとに見た場合、速度を合わせられない。ローラーよりディスクが速い部分があったり、ディスクよりローラーが速い部分があったりする。滑ることによって辻褄を合わせるしかない。これは摩擦損失になる。だからフルトロイダルのパワーローラーはあまり厚くできない。従って伝達する面積を大きくできない。同じトルクを伝達しようとすると、変速機そのものが大きくなる。
トロイダルCVTで、力はトラクション油を介して伝わる。トラクション油は強い力をかけると凍ったように固まる油。ディスク、ローターの両方に凍りついたようにして力を伝える。
伝達トルクを増やすためにはトラクション油の面積当たりの伝達力を上げる必要がある。問題は温度上昇だった。トラクションによって発生した熱がトラクション油の温度を上げる。温度が上がると、トラクション油の粘性が下がって油膜が切れ、金属同士が直接接触して伝達面を傷める。このため温度上昇が一定のレベルを超えないようなトルクしか伝えられなかった。従来のタイプでは内部にトラクション油の“霧”を作ってローターの側面に供給していた。これでは供給量、冷却熱量ともに不足で、それが伝達トルクの上限を決めていた。
▼トラクション油をじゃんじゃんかける
トロトラック社はローターを取り囲む覆いを取りつけることによってこの問題を解決した。覆いはローターの先端部だけに穴が開き、それ以外を完全に取り囲んだ形。ローターの軸からトラクション油を供給し、ローターと覆いの間を完全にトラクション油で満たす。するとトラクション油はローターの側面から熱を奪い、最後にトラクションを発生する部分に集中して流れ、冷却する。
こうして、新しい試作品は小型化に成功した。ローターの直径を従来の試作品の120mmから100mmに小さくしながら、従来通りの伝達出力である220キロワット、伝達トルク400N・mを守った。ローターを小さくした結果、変速機全体は長さで40mm、直径で20%小型化できた。質量は従来の試作品が135kg(ただし、これは軽量化を突き詰める前の段階)だったのに対して90kg。最新の6速自動変速機に対して価格、寸法で並ぶという開発目標に対して「視野に入った」とトロトラック社のデイビッド・プライスCTO(最高技術責任者)は言う。
フルトロイダルCVTは実用化に大きく近づいた。トロトラック社のメンバーが来日した目的はモーターショーへの展示だけではない。日本の自動車メーカー巡りもスケジュールに入っている。
ハーフの日本精工が先行すれば、フルの光洋精工が追う。こうなると気になるのがNTN。両社のブースを横目で眺め、「うちにはなぜCVTがない」と悔しがっていることだろう。次回はハーフでもフルでもない別のタイプのCVTを出展してくれることを期待しよう。


























