日経ものづくり
9号

(12月号;12月1日発行)



材料が「旬」

今こそ使え




【Part 1:総論】進化する材料活用

【Part 2:ユーザー動向】
 事例(1) ホンダ 高級セダン「レジェンド」
 事例(2) カシオ計算機 デジタルカメラ「EX-S100」
 事例(3) シャープ ノートパソコン「MURAMASA」
 事例(4) 日産自動車 高級セダン「フーガ」
 事例(5) 横浜ゴム 自動車用タイヤ「C.drive」
 事例(6) エルナー 電気二重層コンデンサ「パワーギャップ」
 事例(7) 日本精工 ベルトCVT用軸受「ベルトップ軸受」

【Part 3:メーカー動向】進化する汎用樹脂 / エンプラ 〜K2004から〜




【Part 1:総論】進化する材料活用

試練乗り越え開花する機能材料
材料軸の「擦り合わせ」環境整う

製品の高付加価値化や他社との差異化に有効な手段である材料。それが,ここにきて使いやすくなってきた。材料メーカー,成形加工メーカー,最終製品メーカー3者の境界が次第に薄まり,互いが互いの領域に対する理解を深めている。その結果,優れた材料,ニーズに合致した材料をいち早く入手し,スピーディーに実用化する環境が整ってきたのだ。材料を存分に使いこなすチャンスが訪れた。

 2004年も,残すところあと1カ月。台風や地震が日本各地を襲い大きなつめ跡を残した一方で,経済界は明るさを取り戻した。自動車やデジタル家電を中心に「過去最高益」を更新する企業が相次ぎ景気回復が鮮明になった。これまでの身を切るリストラ効果に加え,消費者の購買意欲をくすぐる商品が出てきたことが背景の一つにある。
 そんな2004年の話題の商品を見ると,材料を上手に使いこなした例が数多くあることに気付く。日本経済をけん引する自動車では,ホンダが2004年10月に発表した高級セダン「レジェンド」が代表格(図)。8年ぶりのモデルチェンジとなった,このクルマの最大のウリは,4輪駆動力自在制御システム「SH-AWD(Super Handling All Wheel Drive)」。4輪のトルク配分をコントロールし,高速でカーブに進入してもアンダーステアが発生することなく意のままの走りを実現する。この世界初の走りは,高度な材料技術があって初めて可能になった。
 好調なデジタル家電,その一翼を担うデジタルカメラでは,2004年9月に発売されたカシオ計算機の「EX-S100」が光学ズーム搭載機として世界最小サイズを果たした。幅88×高さ57×厚さ16.7mmという小ささを支えた要素技術が,透光性セラミックスを用いたレンズ。これなくして世界一の称号を得ることはできなかった。
 こうした例は,何も最終製品に限らず,電気二重層コンデンサや軸受といった部品を含め製造業全般で広く見受けられる。当然のことながら,材料を駆使して最終製品や部品の付加価値を高めたり他社との差異化を図ったりするという手法自体は,取り立てて目新しいものではない。しかし,それがここにきて目立つようになってきたのには,心理的な要因と構造的な要因の二つがある。

本質を変えられるのは材料
 まず,心理的な要因とは,材料活用に対するマインドが高まってきたことをいう。  これまで『日経ものづくり』では事あるごとに,日本の製造業が強さを取り戻すための方策の一つとして「製品や部品の高付加価値化」が有効であることを指摘してきた。もちろん,高付加価値化にはさまざまな手法がある。他社がアッと驚く企画で勝負するもよし,他社にまねできない斬新な設計で圧倒するもよし。ここで話題にしている積極的な材料活用でも,もちろんよい。しかし,だ。
 「物にもよるが,製品や部品をガラリと本質から変えるポテンシャルを持つのは材料」(クラレつくば研究所,兼オプトデバイス商品開発センター長の佐藤寿昭氏)。今,日本の製造業に求められているのは,小手先の手法ではない。それでは国内の競合他社はもちろん,中国にもやすやすと追い付き追い越されてしまう。必要なのは,一朝一夕ではまねできない確固たる技術に裏付けされた本当の強さ。それを目指した時,「材料が大いに期待されていることを感じる。実際,ユーザーさんから話はたくさんもらっている」(日本ゼオン総合開発センター所長の夏梅伊男氏)。
 高付加価値化の手法はあまたあれど,本当の強さを求めたときに材料活用はとりわけ有効。こうした認識から,材料に未来を託そうとするユーザーが増えてきているのだ。 (以下は日経ものづくり2004年12月号に掲載)


ホンダの新型「レジェンド」
さまざまな部位で,高張力鋼板,アルミニウム合金,マグネシウム合金,CFRP(炭素繊維強化プラスチック)など従来と異なる材料を活用した。従来に比べて車体を約151kg軽量化した。




【Part 2:ユーザー動向】
事例(1) ホンダ 高級セダン「レジェンド」

アルミの活用技術を究める
約151kgの軽量化を実現

 パワフルなエンジンと,前後輪の駆動力配分や後輪の左右の駆動力配分を自在に制御できる新しい4輪駆動システム「SH-AWD」を搭載し,高い運動性能を実現したホンダの新型高級セダン「レジェンド」。パワフルで機動性の高い装備はそれだけ重くなりがちで,その優位性を可能な限り引き出し,高い運動性能を実現するには,車体の軽量化が不可欠だった。
 そして,そのためにホンダが取り組んだのが,従来の鋼板とは違った素材の活用。アルミニウム(Al)合金,マグネシウム(Mg)合金,CFRP(炭素繊維強化プラスチック),高張力鋼板などの素材を駆使して,約151kgもの車体軽量化を果たしたのである。
 素材の活用において新型レジェンドで特に目立つのは,アルミ合金の大幅な採用である。車体パネルではボンネット,トランクリッド,フロントフェンダへ,車体骨格ではフロント/リアのバンパビームへ,シャシーではフロント/リアのサブフレーム,フロント/リアのサスペンション・アーム〔ロアアーム,ナックル,アッパーアーム,コントロールアーム(リアのみ)〕,フロント/リアのブレーキキャリパへ,エンジンではインテーク・マニホールドへ,それぞれアルミ合金を採用している。

アルミをより安く使う技術開発
 これまでホンダは,総アルミボディのクルマを幾つか開発している。1990年9月発売のスポーツカー「NSX」しかり,1999年11月発売のガソリンエンジン・ハイブリッド車「インサイト」しかりだ。しかし,それらは少量生産の高価な車種で,大量生産の車種ではアルミ合金の適用部位は限られていた。コストが高く,量産に見合った製法が確立されていなかったため,大量生産車ではアルミ合金を幅広く使うことはできなかったのである。
 それが新型レジェンドで可能になったのは,一つには,NSXから10数年という歳月を経て,アルミ合金の自動車材料としての成熟度が高まり,その成形・加工技術の完成度が高まってきたため。そしてもう一つは,軽量化のためにアルミ合金を使おうという強い決意がホンダにあったためといえる。実際,同社は新型レジェンドの開発に当たり,月産2500台規模のクルマで,アルミ合金をより安く使えるようにする技術を数多く開発している。 (以下は日経ものづくり2004年12月号に掲載)


車体パネルやバンパビームにアルミニウム合金を適用
鋼板に比べて高価とされるアルミ合金を,材料や成形・加工技術の見直しにより幅広く使えるようにし,車体の軽量化を図った。




【Part 2:ユーザー動向】
事例(2) カシオ計算機 デジタルカメラ「EX-S100」

セラミックスレンズを使い
体積で世界最小ズーム機に

 2.8倍の光学ズーム機能を搭載しながら16.7mmの薄さを実現したカシオ計算機のデジタルカメラ「EXILIM CARD『EX-S100』」。分厚いデジタルカメラが多かった2002年に,レンズは単焦点と割り切りながらも11.3mmと薄いデジタルカメラ「EXILIM『EX-S1』」を世に問うた同社が,薄さにこだわって開発した光学ズーム機だ。その薄さは, EXILIMシリーズの他の光学ズーム機と比べても歴然。体積も約79mLと光学ズーム機で世界最小だ。
 そして,それを支えたのが村田製作所の透光性セラミックス「ルミセラ」。ルミセラは,バリウム(Ba)系の誘電体セラミックスで,この種の材料としては珍しい透明のものだ。カシオは,これをレンズユニットの一部のレンズに利用することで,同ユニットの薄型化を図った。沈胴時の厚さは約15mmと以前より3mm薄い(図)。

新しい材料をいち早く使う
 カシオが,デジタルカメラ用のレンズ材料としてルミセラに目を付けたのは,村田製作所の担当者がカシオに技術評価の依頼で訪れたのがきっかけだった。透明なセラミックスができたので,用途を探していたのである。
 その担当者が持ってきたパンフレットを見てカシオが注目したのは,屈折率と強度の高さだった。屈折率は通常の光学ガラスの1.5〜1.85に対してルミセラは2.08。曲げ強度も光学ガラスのBK7がせいぜい100MPa程度であるのに対してルミセラは150MPaと高かった。屈折率が高ければ,光をそれだけ大きく曲げられるのでレンズユニットを薄くできる可能性があり,曲げ強度が高いのでレンズそのものを薄くできる可能性も高かった。
 そこで,カシオはデジタルカメラ用のレンズ材料への適用を想定し,短波長の光の透過性向上と,透光性を低下させる気泡(ポア)の除去など,素材の改善を提案。ルミセラを活用するための設計や研磨に関する技術開発に取り組み始める。そして,両社が協力し合うこと約2年,ついにデジタルカメラ用のセラミックスレンズが完成するのだった。 (以下は日経ものづくり2004年12月号に掲載)


ズームレンズの薄型化とそのカギを握った透光性セラミックスレンズ
「EX-S100」では2.8倍の光学ズーム機能を搭載しながら,16.7mmの薄さを実現している。それを支えたのが薄型のズームレンズ・ユニット。従来,沈胴時に約18mmあったものを約15mmに薄型化している。




【Part 2:ユーザー動向】
事例(3) シャープ ノートパソコン「MURAMASA」

「下敷きパソコン」を目指し
アルミとマグネで薄さ徹底

 パソコンではもはや,CPUのクロック周波数やハードディスク装置(HDD)の容量は代表的なスペックではなくなった。このことを象徴する出来事が,米Intel社の方針転換。「CPUのクロック数ではユーザーにアピールできない」と,「○GHz」という表示を前面に出さなくなった。
 実際,パソコンの性能は,通常の使用には何ら支障のないレベルに達している。そこで,「他社との差異化においてコアコンピタンスを生かした展開が今後より重要になる」と考えるシャープは,二つの方向から攻めていく。
 一つは,同社が得意とする液晶技術との融合。液晶テレビ受像機をはじめとするAVの技術とITの技術を取り込み,新しいスタイルのパソコンを追求する。もう一つが,モバイル性能の徹底向上である。パソコンと生活が切り離せなくなり常に持ち歩くことを考え,薄型化,軽量化,低消費電力化を強力に推し進めていく方針だ。

互いに情報を開示
 特に,シャープは薄型化に強いこだわりを持つ。2000年初めに設定した,薄さの最終目標は実に6mm(図)。「シートパソコン」あるいは「下敷きパソコン」と呼ぶこの薄さなら,会議に持っていくにも出張に出掛けるにも全く苦にならないはずだ。
 ただ,こうした極めて高い目標を掲げたとき,共通部品を寄せ集めて組み立てる従来の手法では明らかに限界がある。そこで同社が必要と感じたのは,部品メーカー,材料メーカー,成形加工メーカーとのより強固なパートナー関係だった。
 「それまでは,提出された見積もりの中から安さと早さを指標に部品メーカーなどを選んでいた。しかしこれからは,高い目標を実現する上で互いにパートナーとして認められるところと組んでいく」(同社情報通信事業本部液晶IT事業部副事業部長の原田宗憲氏)。 (以下は日経ものづくり2004年12月号に掲載)


究極の目標
薄さはわずか6mm。ノートパソコンの薄型化プロジェクトは,2000年に「緊急プロジェクト」として始まった。




【Part 2:ユーザー動向】
事例(4) 日産自動車 高級セダン「フーガ」

量産車初のアルミドア
鋼板に比べて24kg軽い

 「側面衝突で最も厳しいとされる米道路安全保険協会(IIHS)の基準をクリアしながら,鼻先を左右にきびきびと動かせる優れたハンドリング性能を持たせたい」(日産自動車第一車両開発本部第一車両計画部プロジェクト統括グループ車両開発主管の平井一男氏)。そのために車体の軽量化に取り組んだのが,日産自動車の高級乗用車「フーガ」である。
 同車は, V型6気筒エンジンをフロント・ミッドシップに搭載して質量配分を理想に近づけ,さらに新開発のサスペンションとショックアブソーバや4輪操舵機構の「リヤアクティブステア」(350GTスポーツパッケージのみ)を搭載することで,走りの安定感とハンドリング性能の向上を図った製品である。問題は,側面衝突対策で車体が重くなると,そうした優れたハンドリング性能を十分に引き出せなくなることだった。
 そこで日産が取り組んだのが,他の部分での車体の軽量化。具体的には(1)ボンネット,トランクリッド,ドアのアルミニウム合金化(2)ステアリングメンバのマグネシウム合金化(3)排気系マフラの軽量化―である(図)。(1)で38kg,(2)で3.8kg,(3)で1.5kgの軽量化をそれぞれ図っている。

欲しかったアルミドアの技術
 フーガは,高価な総アルミボディのクルマ以外でドアをアルミ化した初めてのクルマ。日産がそれに挑戦したのは「ホンダや独Audi社にはアルミドアの経験があるが,日産にはそれがなかったため」(平井氏)である。アルミは自動車材料として成熟度が増しており,その活用技術の重要度はどんどん高まっている。そのため,コスト増というマイナス面には目をつぶり,思い切って挑戦したのだ。
 一方,ステアリングメンバのマグネ化に踏み切ったのは,軽量化以外でも利点があったため。ステアリングメンバは,ステアリングコラムを支持する部材。周囲にはエアコンの熱交換器やブロア,オーディオなどが配され,インスツルメント・パネルの支持部品,オーディオ,ワイヤハーネス,計器類などを留めるためのブラケットが取り付けられる。従来は鉄製のパイプを使って作っていた。 (以下は日経ものづくり2004年12月号に掲載)


車体パネルのアルミニウム合金化
ボンネット,トランクリッドに加えて,量産車としては初めてドアにアルミニウム合金を適用した。従来素材の鋼板と比べて,ボンネットで9kg,トランクリッドで5kg,ドア(4枚)で24kgの軽量化を図っている。




【Part 2:ユーザー動向】
事例(5) 横浜ゴム 自動車用タイヤ「C.drive」

ゴムの構造制御の妙で
制動距離を2m前後短縮

 ぬれた路面での制動距離や操縦安定性に対する要求が日本よりも厳しい欧州。その欧州市場を強く意識して横浜ゴムが開発したタイヤが,制動力を高めた「C.drive」である。SBR(スチレン・ブタジエン・ゴム)にシリカ(SiO2)を20phr配合したタイヤと比較して,ぬれた路面での制動距離は2m前後短く,そうした制動力の高さがウリのタイヤである。
 そして,そうした魅力づくりを支えたのが新しいタイヤ用のゴム材料「ミクロ・フレキシブル・トレッド・コンパウンド」。横浜ゴムが開発した次世代のタイヤ用ゴム材料である。

次世代材料を素早く採用
 自動車のタイヤの材料は100年前からゴムである。ただ,その中身は時代とともに進化を続け,それがタイヤの性能を高めてきた。
 「中でも,10年前にタイヤの性能を飛躍的に向上させたのが,SBRにシリカを配合したゴム」(横浜ゴム タイヤ第一製品企画部製品企画1Gチーフ・マーケティング・プランナーの伊藤邦彦氏)。このゴムは正確には,耐摩耗性を高めるためにSBRに配合していたカーボンの一部をシリカに置き換えたもの。本来は,カーボンをすべてシリカに置き換えたいが,「シリカはSBRと相性が悪く,均一に分散させるのが難しいため,その配合比率は低かった」(同社タイヤ研究部材料配合研究グループの網野直也氏)。そのため,シリカの配合比率をいかに高めるかがその後のタイヤ材料開発で大きな焦点となっている。 (以下は日経ものづくり2004年12月号に掲載)


制動力を向上する新開発のミクロ・フレキシブル・トレッド・コンパウンド
カーボンを配合しても硬くならないように,糸まりのような軟らかいゴム「MFポリマー」を主素材のゴムに混入した。




【Part 2:ユーザー動向】
事例(6) エルナー 電気二重層コンデンサ「パワーギャップ」

材料メーカーに技術者派遣
新活性炭電極で大容量化

 台湾や中国との不毛な価格競争から脱却し,高付加価値化路線をまい進する電子部品メーカーのエルナー。その一つの柱が,大容量タイプの電気二重層コンデンサである。現在は,(1)急速充放電が可能(2)繰り返し充放電に強い(3)出力密度が大きい──といった特性を生かし,デジタルカメラの電池補助やメモリーのバックアップなどに利用されているが,電気容量は数百Fにとどまる。これが1000F,1万Fと大容量化していけば,用途は複写機,エレベータ,電車,そして自動車にまで広がっていく(図)。同社は,大きな需要が期待できる自動車を最終目標に,大容量化の研究を加速している。

大容量化に立ちはだかる材料の壁
 電気二重層コンデンサは,大ざっぱには電極と電解液から成る。電極表面にイオン吸着層(電気二重層)を形成し,イオンの吸着と脱着を利用して充放電する。エルナーでは,電極に活性炭を,電解液には有機溶媒を使用している。
 こうした構造の電気二重層コンデンサを大容量化する場合,単純には電極の比表面積を大きくする。しかし,台湾や中国が追い付けない高度なレベルでの開発では,事はそれほど単純ではない。物理吸着するイオンの種類に応じて活性炭の孔径を最適化したり,その活性炭に合わせて電解液を選択したりしなければならない。その際のキーテクノロジーはズバリ「材料」。それでも「電気容量で200Fまでは独自路線を貫けたが,それ以上大きな電気容量を目指したとき,材料の壁は厚かった」(同社)。 (以下は日経ものづくり2004年12月号に掲載)


電気二重層コンデンサの用途
現在は,メモリーのバックアップやデジタルカメラの電源補助,おもちゃなど電気容量の小さな用途が中心。大容量化していくと,複写機,エレベータ,電車,自動車と広がる。




【Part 2:ユーザー動向】
事例(7) 日本精工 ベルトCVT用軸受「ベルトップ軸受」

破損のメカニズムを解明し
肌焼鋼の寿命を10倍超に

 「クルマの足回り部品の場合,形状が複雑なため応力解析をきちんと実施すれば設計で逃げられる要素がある。しかしパワートレーン系の部品の場合には,そうした要素が少ない。それ故,性能を上げ付加価値を高めるには材料で勝負するしかない」(日本精工)。
 日本精工が手掛けるパワートレーン系の部品の一つに,2004年6月に開発したベルトCVT(無段変速機)用の軸受「ベルトップ軸受」がある。ベルトCVTは,金属製の駆動ベルトをプーリに押し付けて動力を伝えるトランスミッション。そこに使う軸受の環境は,エンジンの高トルク化,高回転数化,高温化に伴い年々厳しくなっている。加えて低粘度,高摩擦係数という特殊な潤滑油にさらされる環境が,設計予測寿命以前に破損する「早期はくり」という問題を引き起こす(図1)。

材料メーカー顔負けの分析力
 「材料で勝負する」日本精工の分析力は,材料メーカー顔負けだ。早期はくりという問題に対しても,それは遺憾なく発揮された。早期はくりは通常のはくりと異なり,@微小亀裂や白色組織変化を伴うA軸受軌道輪に露出した活性な金属面が触媒となって潤滑油が分解し水素を発生,それが材料中に侵入して高い応力場に集まる─ことを突き止めたのだ。
 特に,Aのようなメカニズムが明らかになれば,的確な対応が採れる。この場合には,軸受軌道輪に活性な金属面を露出させないこと,つまり摩耗を極力抑えることが何より効果的。その上で,水素の拡散と微小亀裂の進展を抑制すればよい。 (以下は日経ものづくり2004年12月号に掲載)


早期はくり
微小亀裂(a)あるいは白色組織(b)が発生し,軸受の表面が破損する。




【Part 3:メーカー動向】
進化する汎用樹脂/エンプラ 〜K2004から〜

軽量化やコスト削減を追求し
材料と成形法の改善は続く

 「新しい材料の情報を知りたいし,欧州の自動車メーカーや自動車部品メーカーがどのような材料をどのように使っているのかということも気になる。製法も含めて検討したい」―。日本のある自動車部品メーカーの技術者は,世界最大のプラスチック見本市「K2004:第16回国際プラスチック・ゴム見本市」(2004年10月20〜27日,ドイツ・デュッセルドルフ)」を視察する目的をこう語る(図)。
 樹脂の積極的な活用は,自動車の軽量化やコスト削減に欠かせない。この自動車部品メーカーの技術者に限らず,材料のユーザーは自社で使えそうな提案や事例を探ろうと必死だ。
 こうした来場者に対し,材料メーカーや成形機メーカーはさまざまな仕掛けを使って,自社製品がいかに使いやすいものになったかを分かりやすい形で伝えようとしていた。
 例えば米DuPont社は,1台の自動車を構成するように樹脂製の自動車部品を配置し,各材料の用途が広がっていることを示していた。部品単体ではなく,自動車全体を視野に入れていることをアピールしている。
 DuPont社に限らず,こうした姿勢が感じられたのは,自動車用大型モジュールの提案。重い金属製部品を接合したり,高価で高性能の樹脂で成形したりするのではなく,汎用樹脂や汎用エンプラを使うというものだ。
 前述の通り,樹脂を自動車に使うのは,軽量化やコスト削減のためである。具体的には,大型モジュールが成形しやすいように流動性を高めたPA(ポリアミド),さまざまな部位で使えるように機械特性の幅を広げたPP(ポリプロピレン)など,既存の樹脂を改質することでモジュール化の要求に対応している。
 大型モジュールに関する提案は,材料によるものだけではない。一体成形や融着といった製造法によるものもある。こうした新しい製造法を開発する際には,材料の特性が重要なカギを握る。そこで,材料メーカーと成形機メーカーが協力して新技術を開発しているケースも多い。材料だけ,または成形機だけで改善を試みるよりも,最初からお互いに協力することで,ユーザーの要求を素早く満たせる。 (以下は日経ものづくり2004年12月号に掲載)


K2004の会場風景
3年ごとの開催。2914の企業・団体が出展,8日間で約23万1000人が来場した。




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