日経ものづくり
6号

(9月号;9月1日発行)



「開発の鉄人」こと 多喜 義彦氏

第4回 星空から技術が降ってきた(2)


引き続いてJAXAの話である。
筋書きは先月号と同じだ。
国の研究機関や事業団として敷居の高かった組織を,今なら活用できる。
ここでは使いやすい断熱材を紹介する。
自動車をはじめ広い用途のある有望な断熱材。
ルーツはH-II ロケットのフェアリングだった。


 原油価格が上がってきた。また省エネ技術に光が当たるんだろうね。省エネのセオリーの一つに「断熱材をしっかり巻き,熱(冷熱)を逃がさない」というのがある。断熱材というのは重要なんだけど目立たない技術でね,グラスウールや発泡スチロールが登場して以来,大した変化がない。
 久々に登場する新製品が,芽だけ見えてきた。マイクロバルーンと樹脂を練り合わせた断熱材。熱伝導率とか,密度とか,基本特性は普通の断熱材とそう変わらないんだけど,これは施工性が抜群に良い。スプレーガンで吹き付けて室温で硬化させるだけだ。「断熱材ですき間なく覆う」という,今までできそうでできなかったことが可能になる。

フェアリングを熱から守れ
 この技術はJAXA(宇宙航空研究開発機構)の前身の一つであるNASDA(宇宙開発事業団)がH-II ロケットのフェアリングを開発している中で生まれた。フェアリングというのはロケットの先端にあるカバー(図)。中には衛星が入っており,左右2つの部分からなる。
 フェアリングは空気の圧縮や,空気との摩擦によって加熱され,表面温度は200〜400℃にもなる。フェアリングそのものはアルミニウム合金のハニカム材だから,アルミ同士を接着している。温度が上がると,アルミと,その接着剤が持たないから,表面に断熱材を張って守る。
 この断熱材,H-II ロケットのころはフェアリングは輸入品で,ほかの所にはコルクにフェノール樹脂を含浸させたシート状のものを使っていた。シートを切って張るため,すき間なく張るのが難しく,職人芸が必要だった。このごろは職人芸がもてはやされるけど,これは職人芸の無駄遣いだよね。使わなくて済む職人芸はなくした上で,残った職人芸を大切にしなくちゃね。
 さらに問題がある。コルクのシートを接着するのに熱硬化性の接着剤を使う。押さえながら硬化させるための治具は必要だし,大きなオートクレーブも要る。
 新しい断熱材はコルクではなく直径数10μmのマイクロバルーンをエポキシ系,またはシリコーン系の樹脂で練ったものだ。樹脂は「ゴム」と呼びたいほど柔軟で,接着剤を使わずに常温で周囲と接着する。
 機械的特性も高い。ロケットを打ち上げ,大気圏の中にあるときは流線型のフェアリングは空気抵抗を減らすのに役立つが,打ち上げから約200秒以上たち,大気圏を出てしまえばもう用はない。衛星を放出するためにはむしろ邪魔だ。 (以下は日経ものづくり2004年9月号に掲載)



【図】H-II Aロケット
先端の部分がフェアリングだ。 (イラスト:JAXA)






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