歩行時の体の使い方を計測し、バランスが良い歩き方ができるような指導やエクササイズを行うことで膝や腰に障害が出ない歩き方を定着させること。歩数や歩行時間などの量ではなく、歩き方の質を可視化して改善するという考え方。

「歩行ケア」の概念図(画像提供:マイクロストーン)
「歩行ケア」の概念図(画像提供:マイクロストーン)
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 この考え方を広めるため、2017年3月に「歩行ケア協会」が設立された。歩行ケアに関するエビデンスの構築や実施できる場所を増やす狙いだ。

小雀保育園 理事長で歩行ケア協会 理事の鷹野禮子氏(右)と歩行ケア協会 理事でマイクロストーン(長野県佐久市) 代表取締役社長の白鳥敬日瑚氏(左)
小雀保育園 理事長で歩行ケア協会 理事の鷹野禮子氏(右)と歩行ケア協会 理事でマイクロストーン(長野県佐久市) 代表取締役社長の白鳥敬日瑚氏(左)
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 歩行ケア協会 理事でマイクロストーン(長野県佐久市) 代表取締役社長の白鳥敬日瑚氏は、「これまでは主観的な歩行指導が一般的だったが、高齢になっても元気に歩くために歩行時の姿勢や体の使い方について体系的に指導する必要がある」と訴える。同年9月2日には協会主催の第1回歩行ケアトレーナー養成講習会を開催し、指導を行う人材育成にも力を入れている。

 歩行ケアでは、理学療法士の知見を基に、疲れにくく怪我をしにくい歩行パターンを設定し、いかにその歩き方に近づけるかを指導する。下肢重心付近の筋肉がうまく使えていないなど理想的な歩き方からずれた歩行パターンは「8種類に分類できる」とマイクロストーンの白鳥氏は話す。それぞれのパターンに応じて、腕ふりや片足立ちのエクササイズを理学療法士や健康運動指導士が指導する。

 指導の前提となる歩き方を手軽に計測する装置として、マイクロストーンは「THE WALKING」を開発した。3軸加速度センサーと3軸ジャイロセンサーを搭載したモーションセンサーを2つ使って歩行パターンを計測する。具体的には、身体の重心である仙骨と動きの中心である胸椎6番のそれぞれの位置にモーションセンサーを設置して、下半身と上半身の動作軌跡を計測する。

「THE WALKING」で使用する2つのモーションセンサー
「THE WALKING」で使用する2つのモーションセンサー
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専用のベルトを使用してセンサーを仙骨と胸椎6番に設置している様子(画像提供:マイクロストーン)
専用のベルトを使用してセンサーを仙骨と胸椎6番に設置している様子(画像提供:マイクロストーン)
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 これまで歩き方の計測は主に、3次元動作分析装置によってモーションキャプチャする方法で実施されていた。しかしこの方法は高額な費用がかかる上、測定環境にカメラを設置する必要があり、計測できる場所が限られてしまっていた。

「THE WALKING」と「VICON」の測定結果に相違がないことが確認できた(画像提供:マイクロストーン)
「THE WALKING」と「VICON」の測定結果に相違がないことが確認できた(画像提供:マイクロストーン)
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 THE WALKINGで計測した歩行パターンのデータは、英Vicon Motion Systems社の3次元動作分析装置「VICON」で計測した結果と比較したところ、大きな相違が見られないことが確認できているという。

 佐久総合病院では、2016年7月から人間ドックのオプションメニューに歩行ケアを採用している。THE WALKINGを使って歩行を計測し、その結果を基に理学療法士が指導を行っている。

小雀保育園で年長の児童に歩行ケアを実施した(画像提供:マイクロストーン)
小雀保育園で年長の児童に歩行ケアを実施した(画像提供:マイクロストーン)
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 企業や保育園、小中学校でも歩行ケアを実施している。佐久市にある小雀保育園では2016年4月から年長園児を対象に歩行計測と、健康運動指導士による個別アドバイスを実施。その結果、歩行時の体の使い方が左右でバランスが悪かった園児が、開始時には23人だったのに対し1年後には4人に減少したという。小雀保育園 理事長で歩行ケア協会 理事を務める鷹野禮子氏は、「幼少期に歩き方を教えることで、生涯腰痛などに悩まないように指導したい」と話す。

■変更履歴
記事初出時、センターの取り付け位置に関する記述で「下肢の重心である仙骨」とあったのは「身体の重心である仙骨」、「上肢の重心である胸椎6番」とあったのは「動きの中心である胸椎6番」でした。お詫びして訂正します。記事は修正済みです。