20個前後という少数の塩基から成るRNA(リボ核酸)。遺伝子の発現を調節する機能などを備え、人間の体内には2000種類以上が存在する。近年、がん細胞を含むさまざまな細胞が分泌し細胞間の情報伝達などに関わるエクソソームと呼ばれる粒子や、そのエクソソームが内包するマイクロRNAががんの増悪や転移に深く関わることが明らかになってきた(関連記事1)。そのため、マイクロRNAはがん医療の分野でとりわけ高い注目を集めている。

マイクロRNAによるがん発見技術の特徴(出所:NEDO)
マイクロRNAによるがん発見技術の特徴(出所:NEDO)
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 これまでに、特定のマイクロRNAをがん細胞に注入すると細胞が正常化したり、逆にがん細胞が特定のマイクロRNAの機能を下げることで悪性度を増していることなどが明らかになっている。がんの増殖や転移に必要な血管新生を、マイクロRNAの“箱舟”であるエクソソームが媒介することも分かってきた。マイクロRNAは、がんのメカニズムを解明したり、その診断・治療法を開発したりする上で鍵を握る分子といえる。

 そしてマイクロRNAは、がんを超早期ともいえる段階で発見したり、再発の兆候をいち早く捉えたりする新しいバイオマーカーになると期待されている。各臓器のがんには、それぞれ特徴的に発現しているマイクロRNAが存在し、がんに罹患するとそれらの血液中の量が変動するためだ。しかもマイクロRNAは、画像診断や既存の腫瘍マーカーでは見つかりにくいほど腫瘍が小さいうちから、そのがんの特徴を反映する。これらの特徴から、血液中のマイクロRNAを測定する手法は、血液や尿、唾液など簡便に採取できる体液サンプルでがんを診断する、いわゆるリキッドバイオプシーの本命とも見なされる技術に浮上している。

 マイクロRNAをマーカーとするがんの早期発見について、その成果に高い注目が集まっているのが日本医療研究開発機構(AMED)の「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクト」である(関連記事2)。国立がん研究センター研究所 分子細胞治療研究分野 主任分野長の落谷孝広氏が統括する2014~2018年度のプロジェクトで、国立がん研究センターや国立長寿医療研究センター、東レ、東芝、アークレイなど9法人・団体が参加。胃がん、食道がん、肺がん、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、大腸がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、乳がん、肉腫、神経膠腫という13種類のがんを、血液から採取したマイクロRNAを使って早期に発見することを目指している。

 既に、国立がん研究センターのバイオバンクに保存された血清検体など約4万3000検体を使った検証を行い、13種類のがんのマーカー候補となるマイクロRNAを計100種類強にまで絞り込むことに成功した。候補となるマイクロRNAは各がんにつき数種類程度で、それらのマイクロRNAがどのように発現しているかを調べることで、そのがんへの罹患の有無を判定する。この手法によるがん検出の感度は高く、95%以上という結果が得られているという。

 こうした成果を受けて国立がん研究センターは2017年8月、患者から新たに採取する血液でこの手法の有効性を確かめる臨床研究を始めた(関連記事3)。がんの診断がついた患者約3000人と、健常な男女約200人ずつを解析対象にする予定。3年後をめどに、がんの1次スクリーニング法として、まずは自由診療の枠組みで人間ドックのメニューなどとして実用化することを目指す。

 このほか、シスメックスとJVCケンウッドは2016年から、血液中のエクソソームを解析する診断機器を共同開発中だ(関連記事4)。血液を用いたがんの早期発見などに役立てる。JVCケンウッドがナノビーズを用いた光ディスク技術を生かし、血液中のエクソソームを捕捉および計数する装置を開発。シスメックスは遺伝子やたんぱく質の測定技術を利用し、エクソソームが内包するマイクロRNAなどを測定する装置を開発する。