ヒトや実験動物の代わりになるセンサー付き精巧人体モデル。東京大学 大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻 准教授の原田香奈子氏と名古屋大学 未来社会創造機構兼大学院工学研究科 教授の新井史人氏、東京大学 大学院工学系研究科 産業機械工学専攻 教授の光石衛氏が2015年6月に造った言葉。

 原田氏と新井氏、光石氏らは現在、内閣府による革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)内のプロジェクト「バイオニックヒューマノイドが拓く新産業革命」を進めている。医療を始めとしたバイオニックヒューマノイドの産業活用を目指すプロジェクトである。

新井氏らが開発したバイオニックヒューマノイド「BH-1」
新井氏らが開発したバイオニックヒューマノイド「BH-1」
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 バイオニックヒューマノイドの医療応用としては、「手技のトレーニングやシミュレーション、医療機器の評価・検証、新たな治療法の検証などを期待している」と新井氏は言う。背景には、新たな医療機器の開発が進む一方で、臨床で利用できるまでにタイムラグが生じることや臨床現場で新たなトレーニングや教育が必要になるなどの課題がある。

 これらを解決するために、医療機器の評価・検証やトレーニングに使用できるシステムが求められてきた。その一つの解決策となるのが、人体を模擬した人工物。再現性が担保でき、新しい医療機器やロボットを使った治療や診断を直接試すことができるという利点がある。

 医療用バイオニックヒューマノイドを開発するに当たり、重視すべき点は7つあると新井氏は言う。すなわち、(1)形状、(2)物性、(3)加工特性、(4)変形、(5)動き、(6)感覚、(7)経済性、である。

 (1)の形状は、見た目が人に似ていること。さらに、薄膜の構造など微細な構造体の再現も場合によっては重要である。(2)の物性に関しては、硬い部分と柔らかい部分や粘り気などの非線形性を再現することが求められる。(3)の加工特性や(4)の変形は、メスなどを使用して加工する際の特性や変形度合も人体に近づける必要がある。心臓を再現する際には、(5)の動きを何らかのアクチュエーターを使って模擬する。(6)の感覚は、力のかかり具合などを再現する。こういったモデルは基本的にディスポーサブルデバイスなので、いかに適切に安く作れるのかが重要であるため、(7)の経済性も意識するべきだという。

 前述のImPACT内のプロジェクトに限らず、手技のトレーニングやシミュレーション、医療機器の評価・検証などに使用する人工物の開発は各方面で進められている。例えば、MICOTOテクノロジー(旧テムザック技術研究所)と鳥取大学医学部、鳥取大学医学部附属病院が共同開発した「mikoto(ミコト)」もその一つ。ヒトを模擬した外見と内部構造を持ち、内部のセンサーが一定以上の圧力を検知するとえずきや咽頭反射といった生体反応を再現する(関連記事12)。

 医療機器開発や臨床現場のシミュレーションの一助となるバイオニックヒューマノイドのような精巧人体モデルの需要は、今後ますます高まるだろう。