明確な定義はないが、動物の健康管理をし、必要に応じて医療を施す分野のこと。動物を対象にした検査や診察、医薬品や特別療法食の提供などが含まれる。

DSファーマアニマルヘルス 新規事業部長 兼 池田動物細胞医薬センター長の永原俊治氏
DSファーマアニマルヘルス 新規事業部長 兼 池田動物細胞医薬センター長の永原俊治氏
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 アニマルヘルスの市場は人間のヘルスケア市場に比べると小さいが、「近年安定して拡大している」と動物用の医薬品を手掛けるDSファーマアニマルヘルス 新規事業部長 兼 池田動物細胞医薬センター長の永原俊治氏は話す。医薬品市場に限ると、ペット用医薬品や特別療法食、畜水産のいずれの分野においても過去3年間で成長しているという。

 市場が拡大しているのは、「ペットが高齢化し、罹患する疾病が変化しているため」と永原氏は説明する。近年は、室内で飼われるペットが増加し、“番犬”ではなく家族として迎え入れるケースが増えた。室内で飼うことで、人間と同じような生活を送ることができ、それによってペットが長寿命化しているという。

ハリネズミ
ハリネズミ
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 長寿命化によって、病気になる犬や猫が増えている。犬が12歳までに発症する疾患を見てみると、がんや皮膚疾患などを発症しやすく、心不全の発症率は7歳を超えると急増することが分かっている。さらに、室内で飼うことで飼い主がペットの異変に気が付きやすいことも特徴だ。

 慢性疾患の罹患率が増加し、人間と同じような病気になる傾向も見られるという。こうした動物には、人間に使用するツールや医薬品が使える可能性がある。つまり、動物を対象にした製品を一から作るのではなく、人間に向けた製品を改良することでアニマルヘルスに参入することも考えられるというわけだ。

合同会社SARR 代表執行社員の松田一敬氏
合同会社SARR 代表執行社員の松田一敬氏
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 アニマルヘルスで特に今後の成長が期待されているのが、「検査やセンシングを行うツール」だと2017年10月に第41回事業創出サロン「アニマルヘルス分野におけるビジネスチャンス」を主催した合同会社SARR 代表執行社員の松田一敬氏は話す。

 なぜなら、動物は自ら「痛い」や「だるい」と言葉にできないからである。ペットとして飼育されている動物であれば、飼い主が異変に気付いて検査や治療を受けさせる必要がある。

 具体的には、「腎盂炎を検知するウエアラブルデバイスやキットなどがあれば有用性は高いだろう」と松田氏は言う。現在は家庭で使えるレベルの製品がほとんどないため、早期診断につながるツールや、予後をモニタリングできるようなデバイスはニーズが高い。

 一方、アニマルヘルスで得た知見を人間のヘルスケアに応用した事例も出てきている。ベンチャー企業のダンテは、畜産豚の人工授精に関する研究を応用して、人間の精液検査キットを開発した。豚の精液成分を良くすることで、人工授精の成功率が向上したことを受けて、人間の不妊治療に新たな風を吹き込みたい考えである(関連記事)。