慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室 専任講師の岸本泰士郎らは、診断と治療の両場面で精神科領域における遠隔医療の有用性を実証したと発表した。認知症診断に用いられる長谷川式簡易知能評価スケールによる検査を、高精細なテレビ会議システムを用いて遠隔で実施し、対面と同等の精度で診断ができることを証明。また、病院と患者宅間で一般的なインターネット回線を使ったWeb会議システムによる遠隔の心理治療を行い、治療効果が不十分だった強迫症患者の症状が改善したことを確認した。

 認知症診断の臨床研究では、60歳以上のアルツハイマー型認知症患者、軽度認知障害者、健常者、合計30名が研究に参加した。改訂長谷川式簡易知能評価スケールを使い、高精細で遅延の少ない映像や音声を届けるテレビ会議システムという通信方法を用いた遠隔検査と対面による検査を実施。遠隔と対面で行った検査スコアを比較した結果は、非常に高いスコアの一致率を証明した。

 また、遠隔治療の臨床研究は、通常のインターネット回線を用いるWeb会議システムで病院と患者宅をつなぎ、医師が自宅にいる患者を治療するという試み。自分の意志に反して不安な気持ちがわいてくる、その不安を解消するために延々と同じ行為をくりかえしてしまう強迫症の患者3名が参加し、曝露反応妨害法と呼ばれる恐怖の対象に少しずつ慣れていく心理治療を行った。その結果、3名とも一定の治療効果が認められ、中には通常の対面治療で十分な効果が得られなかったにもかかわらず、遠隔治療で劇的に症状が改善するという患者もいたという。

 今回の研究は、特定の検査や治療対象が絞られたもので、「成果をすぐに精神科医療全般に広げて考えることはできない」としているが、病院に専門家がいない場合や患者が外出できず受診が困難な場合でも、遠隔で行う診療が有用であることを示したと評価している。今後、様々な診療場面でより多くの患者に対する検証を行っていく必要があるが、成果を積み重ねることで遠隔医療が国民の安心と健康に寄与できるような社会の実現を目指していくとしている。