図1 日立製作所執行役専務の小島啓二氏
図1 日立製作所執行役専務の小島啓二氏
[画像のクリックで拡大表示]
図2 鉄道事業でのIoTの応用
図2 鉄道事業でのIoTの応用
[画像のクリックで拡大表示]

 日立製作所執行役専務サービス&プラットフォームビジネスユニットCEOの小島啓二氏は、「PTC Forum Japan 2016」(2016年12月1日、東京・ベルサール新宿グランド)で講演し、IoT(Internet of Things)の事業への適用について、鉄道事業を主な例に取って説明した(図1)。車両と設備のリモートで監視し、高い車両稼働率や定時運行の維持、部品交換サイクルの延長を図る。さらに、アジア都市部での地下鉄建設提案などのため、歩行者や自動車の移動データを基に建設後の渋滞緩和状況をシミュレーションし、説得力のある提案を可能にする。

 同社は英国やイタリアなどで鉄道事業を積極的に展開している。「これまでは鉄道車両や信号システムなどの、フィジカルな製品の供給が中心だったが、それが今大きく変わってきている。車両の保守基地を設置して保守を請け負ったり、日々の運行計画を作って管理したり、さらには乗車券も売るところまでワンストップでやってほしい、と言われるようになっている」(小島氏)という。欧州では時間帯や運行状況、乗客の状況などに応じて運賃を動的に変えることが多く、そのオペレーションも含めて担当する必要が出てきている。

 「従ってIoTの仕組みを鉄道事業について持っていないといけないし、それが今後のビジネスの根幹になる。もし車両の稼働率が落ちればペナルティーになってしまう半面、ローコストで高い稼働率を維持できれば、その分は全部利益になる。鉄道に関しては、IoTは本当に実際的かつシリアスな要素になっている」(同氏)という。同社のIoTプラットフォーム「Lumada」を適用して、車両からのセンシングデータ、保守管理システムからのデータを集約した上、保守担当者へ作業依頼を出すなどの情報処理を可能にする(図2)。

 同氏はさらに、鉄道新線の建設などに向けて顧客とビジョンを早期に共有するためのシミュレーション・システムを、同社のツール「Cyber PoC」をベースに構築した例を説明。ベトナムのような新興国で、交通渋滞が厳しくなっている大きな都市に地下鉄を建設する際に、関係官庁に説明に行くという想定で作ったシステムという。その都市の地図で新線の経路を描くと、どんな運行ダイヤにするかをシステムが自動で生成し、コストを見積もる。現状の自動車と歩行者の移動状況に関するデータはあらかじめ取得しておき、それを基に地下鉄開業後の交通渋滞がどうなるかをシミュレーションして顧客に見せる。

 「渋滞の状況がどう変わるかに加えて、運行の経費や設備の維持費がどうなるか、どのくらいの期間で投資を回収できるか、そのための運賃の設定はどうかなどを明示する」(同氏)。このようなイメージを顧客と早期から共有することで、受注を獲得してきたいという。

 鉄道以外についても、同氏は製造業の工場で画像センシングデータを取得・解析することによる品質の安定化、工場改革や倉庫作業の最適化への人工知能(AI)の応用などについても説明。医療装置の遠隔メンテナンスでは、PTCと協業している例を示した。