従来の電極の構造(左)と、今回のnmレベルの複合化電極の構造(右)
従来の電極の構造(左)と、今回のnmレベルの複合化電極の構造(右)
右端は透過型電子顕微鏡写真(出所:産総研)
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電極抵抗が減り、電流密度と電気伝導率が増加
電極抵抗が減り、電流密度と電気伝導率が増加
(出所:産総研)
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 産業技術総合研究所は11月9日、水素の大量製造を可能にする材料を開発したと発表した。

 従来の水の電気分解技術に比べて、大幅に電解電流密度を高めた材料とし、水素を大量に合成できる。太陽光発電など再生可能エネルギー発電の出力変動や余剰電力の吸収に寄与できるとしている。

 無機機能材料研究部門 機能集積化技術グループが開発したもので、固体酸化物型電解セル(SOEC)の陽極に使う、寸法がnmレベルの酸化物複合化材料である。

 固体酸化物型電解セルによる水電解は、水素製造に必要なエネルギーを従来の水電解技術に比べて20~30 %削減できる上、Pt(白金)などの貴金属による電極が不要などの利点がある。その一方で、セル面積あたりの水素製造量(合成速度)が少なかった。

 この課題の克服には、固体酸化物型電解セルの陽極の改良が必要となっていた。この陽極は、電気伝導率が高く電極抵抗が小さいほど、高い電流密度が得られるようになる。

 これまで陽極の材料として一般的だったのは、電子伝導性のペロブスカイト型構造材料(La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3:LSCF)だった。イオン伝導性材料のガドリウム添加セリア(GDC)と複合化して、電極内に電子とイオンそれぞれの伝導経路を形成すると同時に、反応する点を増やすことにより、電極抵抗を低減させて使ってきた。

 今回は、高電子伝導性のペロブスカイト型構造(Sm0.5Sr0.5CoO3:SSC、サマリウムストロンチウムコバルタイト)と、高イオン伝導性材料のサマリウム添加セリア(Ce0.8Sm0.2O1.9:SDC)をnmレベルの一次粒子とし、両者が均質な三次元ネットワークを構成する酸化物複合構造の二次粒子を設計した。噴霧熱分解法により、この複合化構造二次粒子を合成し、陽極の材料を作製した。

 今回使ったSSCは、従来のLSCFよりも高い電子伝導性を持つ。しかし、わずかながらイオン伝導性も持つことから、高イオン伝導性材料と複合化しても、陽極の性能を向上させることが難しかった。

 また、これらのイオン伝導性材料と複合化すると、電極内のSSCのネットワークが途切れ、電子伝導率が低下してしまう。

 そこで、今回は、マイクロ構造による電極内の電子伝導経路を構築して、SSC自体の電子伝導率を低下させることなく、さらに、二次粒子内にイオンの伝導経路も構築して、広い反応場と高い電気伝導性を実現した。

 この材料を陽極に使った固体酸化物型電解セルで高温水蒸気電解したところ、電解電流密度は2.3 A/cm2(750 ℃、電解電圧1.3 V)となった。既存の水電解技術であるアルカリ水電解や、高分子型電解、これまでのSOEC高温水蒸気電解の2~10倍という数値で、実用化の目安とされている2 A/cm2を上回った。

 セル面積あたりの電解水素の合成速度も、高分子型の水電解に比べて2倍以上早く、電解セルのコンパクト化を実現できる可能性がある。

 これにより、水素製造装置向けの電解装置を小型化できるなど、再エネを使った水素製造時のコストを低減できるとしている。

 技術の詳細は、11月17日に開催される固体酸化物エネルギー変換先端技術コンソーシアム公開シンポジウムで発表する。