米国による温室効果ガス排出量の推移と今後の見通し。トランプ政権下では16%の増加を見込む
米国による温室効果ガス排出量の推移と今後の見通し。トランプ政権下では16%の増加を見込む
(出所:Lux Research)
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 米国の技術調査会社Lux Research社は11月2日、トランプ政権が2期8年続いた場合、ヒラリー・クリントン氏が政権を取っていた場合と比較して温室効果ガスが34億t(16%)増加するとの見通しを発表した()。

 クリントン氏はオバマ政権の環境エネルギー政策を踏襲し、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの導入をさらに増加させると公約していた。特に、2015年7月に同氏は「私が大統領に当選した場合、最初の任期中に5億枚の太陽光パネルを米国内に設置する」と宣言していた。

 一方、トランプ氏のエネルギー・ビジョンでは、シェールガスや石炭など化石燃料の生産を増加させるとし、再生可能エネルギーの優遇策には極めて批判的だった。米国の業界筋では、既にオバマ政権や環境保護庁(EPA)が策定した「クリーンパワー計画(CPP)」は「死に体」だとの声が増えている。

 おりしも、今週初めから18日までモロッコのマラケシュでは第22回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP22)」開催されている。また、11月4日には昨年12月にCOP21で決議された「パリ協定」が発効したばかりだ。

 トランプ次期大統領は選挙戦の間、「クリーンパワー計画は廃止、パリ協定は脱退」と公約していた。実際には、パリ協定の規定上、批准国は同協定から4年間、離脱できないものの、トランプ政権が削減目標を事実上、棚上げし、国内の温暖化対策を不実施とするシナリオは考えられる(関連記事)。そうなれば、温室効果ガスはLux Research社の見通しのように増加する公算が高い。

 一方で、同社の分析では、石炭の位置付けや石油・ガス業界の技術革新などについても触れている。トランプ次期大統領がシェールガス関連の規制を公約通りに緩和すれば、ガスの供給が増加し価格が下落するため、石炭の需要が弱含みとなる点は変わらないと見ている。

 同社はクリントン氏が政権を取っていれば再エネの導入がさらに加速し、蓄電池や分散電源を含む新たなバリューチェーンが勃興すると見ていた。トランプ新政権では再エネの導入が後退する公算が大きく、この見通しは実現しない可能性が高まったと言えそうだ。