11月1日から2日間にわたり、東芝はプライベートフェア「TOSHIBA OPEN INNOVATION FAIR」を開催した。IoT(Internet of Things)事業に軸足を置いた内容で、これに合わせて新たなアーキテクチャーの「SPINEX」も発表した。

 同フェアの基調講演では、インダストリアルICTソリューション社 社長の錦織弘信氏(写真1)がSPINEXの概要や方向性などについて語った。その中で、錦織氏は世界におけるIoT市場について触れ、2015年には26兆円だった市場規模が2020年には51兆円になるという調査結果を紹介した。これに対し、同社の2015年のIoT関連事業の規模は1000億円であり、2020年にはこれを2000億円に引き上げていくとした。そのためのコアアーキテクチャーがSPINEXであり、今後はインダストリアルICTソリューション社を中心に社会インフラ領域、エネルギー領域、ストレージデバイス領域においてIoT事業の展開を加速させるという。

写真1●基調講演でSPINEXについて語る東芝インダストリアルICTソリューション社の錦織弘信社長
写真1●基調講演でSPINEXについて語る東芝インダストリアルICTソリューション社の錦織弘信社長

 さまざまなものづくりの現場において、製造機器や装置の状態をセンサーで収集し、それらのデータをクラウドに送る前に現場で最適化するエッジコンピューティングを実現する。また、現場の環境を忠実に再現して装置や機器を遠隔監視し、生産性や安全性の向上、プロセスの最適化、オペレーションコストの削減などにつなげる。同社が得意とするメディア知識処理技術(メディアインテリジェンス技術)を駆使して、音声や映像などの情報から人の意図や状況を理解するソリューションも提供する。こうした取り組みにより、新たなカテゴリーの商品やサービスを創出できるという。

 今回のフェアでは、ソリューションを「共創」「デジタル化」「体験」という3つのカテゴリーに分けて紹介した。以下、それぞれのカテゴリーの中から主なソリューションを紹介する。

顧客目線でIoT事業を共創

 IoTを駆使したサービス事業への構造転換を推進するには、BtoBの先にあるC、すなわち顧客目線で製品やサービスを考えることが重要であるとし、東芝では今後積極的にパートナーとの共創を進めていく。共創の一例は、アルパインと進めているドローンビジネスのプロジェクトである(写真2)。アルパインがカーエレクトロニクス分野で培ってきたノウハウを基にした航行制御の技術と、東芝が持つ画像認識の技術を組み合わせ、ドローンを使って送電線や鉄塔などの電力インフラの点検を行う。現在実証実験中で、2017年度のサービスリリースを目指している。

写真2●ドローンによるインフラ設備点検
写真2●ドローンによるインフラ設備点検

 リコーとの共創プロジェクトでは、地域活性化に貢献する新ビジネスの創造が浜松市で進んでいる(写真3)。リコーが築いてきた街づくりの実績に、東芝が持つエネルギーマネジメントやインバウンド対応の同時通訳技術などを組み合わせる。これにより、浜松市を魅力ある街にするために地元企業や行政・市民とで行うビジネスを具体化する。

写真3●地域活性化のためのビジネス創出活動も紹介
写真3●地域活性化のためのビジネス創出活動も紹介

音声・映像を徹底活用しデジタル革新

 デジタル化のカテゴリーでは、ビジネスの革新や新規ビジネスの創出に役立つ商品やサービス、およびものづくり現場でのIoT活用などを紹介した。

 新規ビジネスの創出に関しては、音声・映像を活用するクラウドサービス「RECAIUS」を活用した例が多く見られた。例えば、RECAIUSの音声解析の技術を接客業に活用したのが、神奈川県の老舗旅館「陣屋」が開発したクラウド型ホテル管理システム「陣屋コネクト」との連携だ(写真4)。陣屋ではこれまで、スタッフがトランシーバによって宿泊者の到着などの情報をやり取りしていた。これを、RECAIUSによって、タブレット端末に向かってつぶやけば音声がテキスト化され、スタッフが持つすべてのタブレット端末に送信されるようにした。これによって、スタッフ間でリアルタイムに情報共有ができるので、接客の質が上がった。さらに、スタッフのつぶやきはすべてテキスト化されて保存されるので、宿泊客からの要望や好みなどの情報も自動的に記録され、マーケティングにも活用できるようになった。

写真4●RECAIUSの音声解析技術によってスタッフの音声による会話がテキストで記録される
写真4●RECAIUSの音声解析技術によってスタッフの音声による会話がテキストで記録される

 RECAIUSの映像解析の技術を活用した「人物ファインダ」は、カメラからの画像を基に人物認識を行い、駅や空港、商業施設などで利用者の行動を見える化して混雑状況や異常事態の発生などを的確に把握することができるソリューションだ(写真5)。

写真5●映像解析の技術を活用すれば監視カメラの映像から異常事態の発生が検知できる
写真5●映像解析の技術を活用すれば監視カメラの映像から異常事態の発生が検知できる