多接合太陽電池とSolar-TPVシステムの特徴
多接合太陽電池とSolar-TPVシステムの特徴
(図:東北大学のプレスリリースより)
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Solar-TPVシステムの概要
Solar-TPVシステムの概要
(図:東北大学のプレスリリースより)
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(a)太陽光選択吸収材料と(b)波長選択エミッタの光学特性
(a)太陽光選択吸収材料と(b)波長選択エミッタの光学特性
(図:東北大学のプレスリリースより)
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 東北大学は、幅広い波長の光を含む太陽光を、太陽電池に最適な波長の熱ふく射に変換して発電する太陽熱光起電力発電(Solar-TPV:Solar-thermophotovoltaic)システムにおいて、世界トップレベルの発電効率5.1%を達成したと発表した(ニュースリリース)。多接合太陽電池とは異なる概念による高効率太陽光発電の実現につながるものと期待される。

 太陽から放射される光(熱ふく射)は、幅広い波長分布(=スペクトル)を持つ。単接合太陽電池は、使用される半導体材料のバンドギャップより短波長の光しか電気に変換できず、それ以外の光は電気に変換されず損失となる。一方、太陽電池を複数枚重ね合わせた多接合太陽電池は、吸収できる波長域を拡げることで太陽光スペクトルを無駄なく電気に変換できる。しかし、単接合太陽電池と比べて生産コストが高いという課題があった。

 Solar-TPVは、集光太陽光によって太陽光選択材料・波長選択エミッタが加熱された後、波長選択エミッタからの感度波長域に合わせた熱ふく射により光電変換セルが発電を行う。太陽光を一旦熱に変換して太陽光の持つ光子エネルギー総量を保存したまま、別波長の光(熱ふく射)へ変換するのが特徴。これにより、安価な単接合太陽電池を用いても高効率な発電が可能になる。

 今回の研究では“熱ふく射のスペクトル制御”と“熱ふく射の一方向への輸送”という概念に基づいた熱ふく射の変換・輸送効率を新たに提案し、その概念に基づきSolar-TPVシステムの全体設計を行った。Solar-TPVシステムは、太陽光を熱ふく射に変換する、つまり光子から光子への波長変換システムであり、太陽光を熱に変換する従来の集光型太陽熱発電とは異なる。

 そのため、効率を高めるには、吸収した太陽光のエネルギーを損失なく波長選択エミッタのみに輸送すること、波長選択エミッタからの熱ふく射スペクトルが光電変換セルの感度波長域にマッチングすることが重要になる。つまり“高い熱ふく射の変換・輸送効率”と“高い光電変換効率”が求められる。

 この2つの効率は、太陽光選択吸収材料と波長選択エミッタの光学設計と幾何学設計により高めることが可能だ。太陽光選択吸収材料は、太陽光スペクトルの強度が強い短波長域で高い吸収率を持ち、長波長域では低い放射率(吸収率)を持つことが求められる。波長選択エミッタは、光電変換セルの感度波長域にて高い放射率を持ち、それ以外の波長域では低い放射率を持つことが求められる。

 今回、より高い熱ふく射の変換・輸送効率を得るため面積比を持たせ、太陽光選択吸収材料からの反射・放射損失を抑制した結果、熱ふく射輸送効率54%、光電変換効率28%が期待できる太陽光選択吸収材料および波長選択エミッタの設計と作製に成功した。また、作製した太陽光選択吸収材料、波長選択エミッタ、ガリウムアンチモン光電変換セルを用いた発電試験で発電効率5.1%を達成した。

 今回の研究は、科学技術振興機構「先端的低炭素化技術開発(ALCA)」のプロジェクトの一環となる。また、科研費の助成を受けた。研究成果は「Applied Physics Express」2016年10月25日付で掲載され、同誌Spotlights論文に選出された。