いわゆる卓上サイズのインクジェットプリンターで、Agナノインクなどの導電体インクと誘電体インクを使い、多層基板はもちろん、フレキシブル基板やリジッドフレキ基板、さらには3次元配線基板まで作る――そんな、多層プリント基板向けの3Dプリンターがいよいよ実用化されようとしている。「DragonFly 2020」を開発するイスラエルのスタートアップ企業Nano Dimension社(同社ホームページ)は、図研の開催する「Zuken Innovation World 2016 Yokohama」(2016年10月13~14日、横浜ベイホテル東急)で、同社製品について講演を行った。主に、機器の開発段階でのプリント基板の試作といった用途を想定する。現在、顧客企業とβ版をテスト中で、2016年下期の事前販売に向けて注文を受けている段階という。

 同社の資料によると、「DragonFly 2020」は外形寸法が100cm×60cm×80cm、重量80㎏の卓上サイズで、20cm×20cm×0.3cmのプリント基板が作れるという。現在使われているプリント基板の大半は、同サイズでカバーできると見込む。樹脂などの硬化処理などの後工程もプリンター内部で自動で行うため、従来のプリント基板作製用のガーバーデータを入れれば、完成したプリント基板が出力される。

イスラエルNano Dimension社 CBO Co-Founder & Member of the BoardのSimon Fried氏。
イスラエルNano Dimension社 CBO Co-Founder & Member of the BoardのSimon Fried氏。
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多層基板向け3Dプリンター「DragonFly 2020」を使った試作品。
多層基板向け3Dプリンター「DragonFly 2020」を使った試作品。
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 登壇した同社 CBO Co-Founder & Member of the BoardのSimon Fried氏によれば、導電体インクとしてはAgナノインクの利用を想定する。Agの代替に使えるほど導電性が高いとしており、信号線だけでなく電源線にも対応可能という。このAgナノインクは、導電性粒子、製造プロセス、組成が最適となるよう、イスラエルHebrew Universityで開発したという。プリンターやソフトウエアもこのインクに合わせて最適化しているという。仕様としては線幅50μmの配線を形成可能だが、配線幅/配線間隔=90μm~100μm/90μm~100μmの配線を推奨する。将来的には実製品や大量生産に向け、NiナノインクやCuナノインクといった安価な素材の追加を検討しているという。

 誘電体インクの材料について、講演では明らかにしなかったが、現在使われるFR-4と同等の誘電率や誘電正接を実現できるとした。耐熱温度は360℃以上で、リフローが可能とする。

 1回のプリントで作れる厚みは最大3μm。0.5μm単位で制御できるという。何層重ねてプリントするかによって厚みを変えることができ、薄くすれば軟らかなフレキシブル基板、厚くすれば剛性の高いリジッド基板、部分的に厚みを変えればリジッドフレキ基板を作れる。現在、下地剤の開発を進めており、ガラスや布地などにもプリントする方法を開発しているという。

リジッドフレキ基板の試作例。左端はリジッド基板状の硬さがある。
リジッドフレキ基板の試作例。左端はリジッド基板状の硬さがある。
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