名古屋工業大学大学院未来材料創成工学専攻の増田秀樹プロジェクト教授は、ピリジン・ホスフィン型のニッケル錯体の触媒による電気化学反応によって、常温・常圧下で水素ガスをつくる基盤的な研究成果を見いだしたことを明らかにした。

 増田教授は、イオウ還元菌という自然界のバクテリアに含まれる「ヒドロゲナーゼ」という酵素が常温・常圧下で水から水素イオンをつくり、さらに水素ガスをつくり出す化学反応を実現していることに着目し、これを生物模倣した“人工触媒分子“の研究開発を続けてきた。最近、“ナノ空間反応場”を利用した高機能触媒反応場をつくり出す手法によって、自然界のヒドロゲナーゼを上回る、常温・常圧下での高効率な水素ガス生成を実現する萌芽的な研究成果を上げた。

 常温・常圧環境で水素ガスを生成する高機能な触媒の反応場を実現できたポイントは、「独自のイオン液体を利用することによって“ナノ空間反応場”をつくり、水素ガスをつくる反応活性化エネルギーを低減し、反応過程でできるラジカルなどの各種の不安定物質を安定化させ、高い電気伝導性を実現したことだ」と、増田教授は説明する。
 
 この研究成果では、まず人工触媒として、+2価のNi(ニッケル)の周囲にP(リン)とN(窒素)の原子を配置し、PとNの各原子に(CH2)を基本とする炭素原子・水素原子などを多数つなげた新規構造の触媒を設計し、つくり上げた。P原子にはベンゼン環が結合している。この新規触媒の中心部にある+2価のNiとP、Nの各位置に周囲の水からHが供給され、そこで電子を受け取ってH2という水素ガスをつくり出すことが基本的な反応と推論している。PとNの原子に結合している(CH2)は“立体化学効果”によってHを選択的に通す役割を果たしていると推論している。
 
 増田教授は、常温・常圧下で液体として存在する塩(えん)であるイオン液体に着目し、反応活性化エネルギーの低減や反応過程でできるラジカルなどの不安定物質を安定化させる工夫を図った。実は、増田教授の研究グループは現在、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施中の「エネルギー・環境新技術先導プログラム」の中で、平成27年度(2015年度)に「低環境負荷アンモニア製造法の研究開発」テーマが採択され、常温・常圧下でのNH3(アンモニア)製造の研究開発に着手している。