東京工業大学は、風力発電が大量導入されても、電力の安定供給を可能にする新技術を開発した。プラグイン型の制御技術を応用した。実データに基づく詳細なシミュレーション実験を行い、その有効性を実証した。科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業における成果。
風力発電は、その導入基数が増加すると、電力システムの系統安定度が低下する。落雷などをきっかけに停電など重大な傷害が起こる可能性が高くなり、電力システムの信頼度が低下する恐れがある。
系統の安定度を高めるには、従来、発電機が備えるPI制御器などのパラメーターを調整していたが、既存のパラメーター調整指標は運用実績から経験的に作成されたもので、風力発電が大量導入された将来の電力システムに対して安定度を向上できる保証はない。
パラメーター調整以外のアプローチとしては、数理的なモデルを用いて制御アルゴリズムを構築することが考えられる。しかし、現実の電力システムは非常に複雑かつ大規模のため電力システムの変化に対しても詳細な情報を反映して制御アルゴリズムの再設計が必要になる。このような背景から、風力発電設備単体に関する数理モデルに基づき制御アルゴリズムを設計・運用するだけで電力システム全体で安定供給が実現できるプラグイン型の制御技術の開発が求められていたという。
今回の研究では、「レトロフィット制御理論」を活用し、風力発電設備に対して制御アルゴリズムを適用することで、安定度を向上する新たなプラグイン型制御技術を開発した。「レトロフィット制御理論」とは、個々のサブシステム(風力発電所群)に適用した制御アルゴリズムが互いに悪影響を及ぼすことなくシステム全体(電力システム全体)の制御機能が向上されることを示した新しい制御理論となる。
個々の発電設備に適用される制御アルゴリズムは、通常の風力発電設備の制御アルゴリズムに加えて、注目する風力発電設備の数理モデルのみから構築可能な数理シミュレータを内在するのが特徴。この機構が複数の制御アルゴリズムの干渉による悪影響を防止する。個々のパラメータ調整も安定度の低下を危惧することなく、事業者ごとに独立して行える。
電力システムの数値シミュレータである「IEEE68バスシステム」に風力発電設備を接続してシミュレーション実験を行った結果、落雷などの事故に起因する擾乱が発生した際、制御アルゴリズムを適用しなかった場合は周波数変動が継続する一方、制御アルゴリズムを適用した場合は速やかに擾乱の影響が除去された。また2つの事業者のうち片方に落雷が発生した状況のシミュレーションでは、それぞれの制御アルゴリズムが互いに影響を与えないのを確認した。
今後は、風力発電に加えて太陽光発電や蓄電池も含めた複雑な環境下での電力システムシミュレーション実験を行い、実際の電力システムへの適用を目指す。研究成果は、米国電気電子学会誌「IEEE Transactions on Power Systems」オンライン速報版に10月6日(日本時間)掲載された。