二重ペロブスカイト化合物の模式図
二重ペロブスカイト化合物の模式図
中央の水色と茶色の球がAサイト、正八面体の頂点にある紫の球がXサイト、正八面体の中心にある紫/灰色の球がB/B'サイトとなる(出所:理化学研究所)
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51個の候補ペロブスカイトとそのバンド幅の位置
51個の候補ペロブスカイトとそのバンド幅の位置
色は6種類のタイプの違いを示す(出所:理化学研究所)
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 理化学研究所(理研)は10月5日、スーパーコンピューター「京」を使って、高効率な材料スクリーニングに基づく探索を行い、次世代太陽電池として注目される「ペロブスカイト太陽電池」の新たな材料候補を発見したと発表した。

 スーパーコンピューターのシミュレーションにより、既知の化合物中の元素を別の元素へ置き換えて、新しい機能を持つ化合物を実験に先立って理論設計できるという。

 ハイブリッド型ハライドペロブスカイト太陽電池は、主にメチルアンモニウム鉛ヨウ素やホルムアミジン鉛ヨウ素といった鉛化ハロゲン化合物が用いられる。これらの化合物は低コストで容易に合成できる一方、鉛による毒性の問題があることから、非毒性元素を用いたペロブスカイト材料の開発が求められている。

 研究チームは今回、「二重ペロブスカイト」と呼ばれる「A2BB'X6型」の化合物を対象とした。結晶構造中の中央部分にあたるAサイトには3種類の陽イオン(有機分子のMA、FA、無機原子のセシウム)、正八面体の頂点にあたるXサイトには3種類のハロゲン陰イオン(ヨウ素、ホウ素、塩素)、正八面体の中心となるB/B'サイトには第2族~第15族内の49種類の原子を組み合わせて、合計1万1025個の化合物を選び出した。

 1万1025個の化合物に対して密度汎関数法による第一原理計算を行い、得られた計算結果を材料データベースとしてライブラリ化した。このデータベースには、結晶構造、全エネルギー、直接遷移ギャップの値、間接遷移ギャップの値、最低遷移が直接型であるか間接型であるか、価電子帯上端と伝導帯下端の位置、電子・正孔有効質量、毒性元素を含むか、ペロブスカイト型を保持するかの情報が含まれる。このデータベースを基に材料スクリーニングを実施した。

 まず、光を効率よく吸収するペロブスカイトを選んだ。高効率の光吸収半導体は1.3eVから1.7eVの間のバンドギャップを持つことが知られていることから、バンドギャップが0.8eV(=1.3-0.5)から2.2eV(=1.7+0.5)の間の化合物を選び出した。計算手法の精度から出る誤差を考慮してバンドギャップには0.5eVの幅を持たせた。また、直接遷移ギャップを持つ半導体は効率よく光を吸収し、薄膜セルを低コストで作製できることから、直接遷移ギャップを持つペロブスカイトを採用した。

 さらに、ペロブスカイト太陽電池は自由電子と自由正孔としてキャリア伝導することが最近の研究で分かってきたことから、電子と正孔の伝導性が高い化合物を電子・正孔有効質量の値で絞り込んだ(有効質量が小さいほど伝導性が高い)。また、半導体の電子と正孔は電子輸送層と正孔輸送層を通って負極と正極に流れるが、半導体と輸送層の材料のバンドの位置が合致する方が流れやすくなるため、伝導帯下端と価電子帯上端のバンドの位置が電子輸送層の伝導帯下端と正孔輸送層の価電子帯上端に合うようなペロブスカイトを選んだ

 最後に、毒性元素である鉛、水銀、カドミウム、ヒ素、タリウムを含むペロブスカイトを除外し、最終的に51個の低毒性非鉛化ペロブスカイト太陽電池の候補化合物を見つけ出した。これらの二重ペロブスカイト候補化合物はすべて、今回の研究で初めて発見したもので、B-B'の組合せに着目して周期表の族の組み合せで分けると、6種類のタイプに分類でき、規則性があることを見出した。

 今後、51個の候補ペロブスカイトが実際に合成されて、太陽電池として性能評価されることが期待される。また、今回スクリーニングで除外された二重ペロブスカイトの中にも、AサイトやXサイトを他の原子や分子に置き換えることで高効率な太陽電池材料となる可能性がある。今後、材料ライブラリを拡充し、より高効率な非鉛化ペロブスカイト太陽電池材料のシミュレーション設計につながることが期待される。

 今回の研究の計算は、文部科学省ポスト「京」重点課題「エネルギーの高効率な創出、変換・貯蔵、利用の新規基盤技術の開発」における「新エネルギー源の創出・確保-太陽光エネルギー」と京調整高度化枠「超並列環境に資する分子科学計算ソフトウェアの研究開発」として「京」の計算資源を用いて行った。研究成果は、米国の科学雑誌「The Journal of Physical Chemistry Letters」オンライン版に9月19日付に掲載された。