会見で受賞を喜ぶ大隅栄誉教授(中央)、三島良直学長、安藤真理事・副学長
会見で受賞を喜ぶ大隅栄誉教授(中央)、三島良直学長、安藤真理事・副学長
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 ノーベル生理学・医学賞の受賞決定を受け、2016年10月3日夜、記者会見に応じた東京工業大学大隅良典栄誉教授は、「役に立つかどうかという観点でばかり科学を捉えると、社会をダメにすると思う」と話し、基礎研究の重要性などを強調した。会見の途中、大隅栄誉教授は安倍晋三首相、松野博一文部科学大臣からのお祝いの電話にも応じた。主な質疑応答の内容は以下の通り。

――受賞の一報は。家族へ伝えたのか。
 「研究室で電話を受けた。妻に伝えたところ、第一声は『えっ…』という感じだった。最近、ノーベル賞の発表時は、毎年母校の高校に同窓生が二十人、三十人集まっていると聞き、毎年申し訳ないと思っていた。ある意味で肩の荷が下りた」

――家族への感謝の言葉は。
 「妻は一時期は研究を共にしていた研究仲間。それだけに、そこに甘えてきたという風にも思う。そういう意味では、いい家庭人ではなかったかもしれない」

――研究者として「人がやらないことをやる」という姿勢を貫いてきた。そのきかっけは。
 「実はあまり競争が好きではない。大勢で寄ってたかってすごいことができるのも1つの科学の在り方だが、一番乗りを競うよりは、誰もやってないことを見つける喜びこそが研究者を支えるのではと常々思っている。だからこそ、従来、ゴミ貯めだと思われていた液胞に注目し、誰も蛋白質分解に興味のないときにオートファジーの研究を始められた」

――政府の研究費は近年、出口志向を強めている印象だ。
 「大変憂いている。やはりサイエンスは、どこに向かっているか分からないからこそ楽しい。そういうことが許される社会的な余裕が欲しい。分からないことにチャレンジするのが科学的な精神だろうと思っているので、少しでも社会がゆとりを持って基礎科学を見守る社会になってほしいと常々思っている。今後は、そのためにも努力していきたい」

――ノーベル生理学・医学賞の日本人の単独受賞は利根川氏以来だ。
 「最近は、2人、3人での受賞がしばらく続いていたので、単独受賞と知らされて実は驚いた。昨日の夜中、もし自分が受賞するならだれと共同受賞かと考えていたのだが、オートファジー研究は日本が大きく世界をリードしてきた分野であり、海外でこの人という研究者が思い当らなかった。共同受賞があったらいいなと思ったが、日本人3人という組み合わせはないなとも思っていた。蓋を開けてみて、だから単独受賞になったのかなあ、と思った次第だ。驚きも含めて感慨深い」

――岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所時代に水島昇氏(東京大学大学院医学系研究科教授)、吉森保氏(大阪大学大学院生命機能研究科教授)とオートファジーの研究をした。当時の研究が受賞に果たした影響は。
 「私は40年間、酵母の研究を続け、27年間、オートファジーを研究してきた。オートファジーは動物細胞で初めに見つかったので、高等生物のオートファジーを研究したいと思って吉森氏を助教授に迎えた。その点では基礎生物学研究所はとってもありがたいところだ。酵母を中心として、動物も植物もやるという世界に類のない研究室を数年間運営できたというのはオートファジーの世界を広げる意味で意義のあるものだったと思う」

――子どものころノーベル賞にあこがれていたと発言されていた。
 「そんなに大きな意味はなく、子どもが研究者になりたいと思った時にあこがれとしてあったということ。小学校の卒業時、友人と交わしたメモに、友人がそういうことを書いてくれていた。小さなときから研究者にあこがれをもっていたのだと思う。ただ、実際に研究をスタートしてから賞につながると思ったことはない。そういうことが励みになったこともなかったように思う」

――研究への姿勢を聞きたい。
 「科学にはゴールがない。何かが分かっても、新しい疑問が湧いてくる。酵母で全部解けたと思ったことは一度もないし、未だに酵母にたくさんのことを問いかけてみて、動物細胞の理解につながればいいなと思っている」