東レなどは、分子結合部がスライドする環動ポリマー構造を導入することで、ポリマー材料に竹のような硬さとしなやかさを持たせることに成功した。内閣府の総合科学技術・イノベーション会議が主導する革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の研究開発プログラムの一環として、同社の研究主幹である小林定之氏らのグループが実現したもの。2016年9月28日、同社と科学技術振興機構(JST)、内閣府が発表した(ニュースリリース)。

 研究グループは今回、分子結合部がスライドするポリロタキサンの構造を組み込むことで、硬さと強度を保ちながら伸びが大きく向上したポリマー材料を開発した。ポリロタキサンは、数珠のようにひも状の分子がリング状の分子を貫通した構造を持つ〔図1(a)〕。このリング状の分子とポリマーの分子をつなぎ合わせることで、分子結合部がひも状の分子に沿ってスライドする環動ポリマー構造をベースとなるポリマーに組み込める〔図1(b)〕。

図1:ポリロタキサン分子の模式図(a)とポリロタキサンを架橋した環動ポリマー構造の模式図(b)
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図1:ポリロタキサン分子の模式図(a)とポリロタキサンを架橋した環動ポリマー構造の模式図(b)
引っ張られることで、リング状の分子がひも状の分子に沿って滑るように動く。

 研究では、ポリロタキサンの分子を設計するとともに、同社の技術「ナノアロイ」を適用することにより、この構造を実現した。ナノアロイは2種類以上の樹脂をnm単位で最適に混合する技術で、これによってベースとなるポリマーとポリロタキサンの分子を結合させられるという。

 開発した環動ポリマー構造の導入技術をポリアミドに適用したところ、環動ポリマー構造を組み込まない場合と比べて材料の破断伸びは約6倍に向上した〔図2(a)〕。繰り返し曲げ試験における屈曲耐久性については、約20倍に高められた〔図2(b)〕。このように硬さと強度を維持しながら破断伸びや屈曲耐久性を向上させた材料は、柔軟材料を添加する従来の手法では得られないものという。さらに、箱状に成形した樹脂を使った衝撃試験では、環動ポリマー構造を組み込むことで破壊されにくくなり、2倍強のエネルギー吸収性を示すことを確認できたとする(図3)。

図2:厚さ1mmの試験片を繰り返し曲げて破断するまでの曲げ回数
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図2:厚さ1mmの試験片を繰り返し曲げて破断するまでの曲げ回数
ダンベル状の試験片の引張試験結果(a)と破断までの繰り返し曲げ回数(b)。
図3:箱状成形品を用いた衝撃試験。
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図3:箱状成形品を用いた衝撃試験。
高さ2mからおもりを落下させたとき、一般的なポリアミドが変形せずに破壊されるのに対し、開発材は変形しながらエネルギーを吸収した。