欧州再生可能エネルギー連盟(EREF)ディレクターで、弁護士のドルテ・フーケ氏
欧州再生可能エネルギー連盟(EREF)ディレクターで、弁護士のドルテ・フーケ氏
(出所:日経BP)
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 欧州再生可能エネルギー連盟(EREF)ディレクターで、弁護士(ベッカー・ビュトナー・ヘルド所属)のドルテ・フーケ(Dörte Fouquet)氏は9月9日、ドイツにおける電力業界の状況や、「エネルギーヴェンデ(大転換)」について紹介した。

 ドイツは、従来の化石燃料による発電や原子力発電から、再生可能エネルギー発電にいち早く転換したことで知られている。この動きと、省エネを総合した取り組みを、「エネルギーヴェンデ」と称している。

 ドイツ国民の中で、再エネへの転換は、当初から当たり前のこととして捉えられ、すでに転換をほぼ終えた状況にある。新たな産業分野を生み出す契機とも捉えられている。

 元々、ドイツのエネルギー分野では、地域ごとに、地方自治体によるエネルギー事業者が存在していた。地域ごとにあるために、数は多く、1930年代には、こうした事業者が1万6000社に達した。

 その後、ファシズムの時代に、地方自治体によるエネルギー事業者の数が減り、大手の事業者による寡占体制に変わっていった。

 現在、E.ONやRWEといったドイツの大手エネルギー事業者は、苦境に陥っている。フーケ氏は、こうした大手エネルギー事業者の苦境を、これまでの事業環境が、大手エネルギー事業者に有利な形に整備されていたなど、「甘やかされてきたツケ」と見ている。

 例えば、アンバンドリング(発送電分離)せず、原子力発電に対する巨額の補助金があり、長期的な契約が可能だった。北部と中部、南部で地域独占的な体制を築いていた。

 その後、電力市場の自由化がEU(欧州連合)で進み、ドイツでも変化が起きた。発送電分離を求められ、送電網へのアクセスは新規参入の事業者にも認められ、電力の小売も自由化された。

 大手エネルギー事業者は、当初、こうした改革に抵抗していたという。ただ、大手エネルギー事業者が変化に抵抗している間にも、電力市場がうまく機能するようになり、市場を失っていったと分析している。

 電力市場の自由化の当初は、地方自治体によるエネルギー事業者は、さらに淘汰され、数が減っていった時期もあった。

 しかし、しばらくすると、地方自治体は、地域のエネルギー事業者が減ったからといって、事務作業の煩雑さは減らず、かつ、電気料金が安くなってもいないことに気づいた。そんなかで電力系統をもう一度、地方自治体の手に取り戻そうという機運が広がったという。現在は、地方自治体によるエネルギー事業者の数が再び増え、約900社に達している。

 再エネへの転換は、個人の事業者から進み、地方自治体によるエネルギー事業者が続いた。固定価格買取制度(FIT)が施行され、再エネの導入が加速していった。

 ドイツのFITの特徴として、再エネを優先的に系統に接続する設計を挙げている。化石燃料や石炭による火力発電所が、あまりにも多く残っている状況の中、再エネをより多く導入するための策だったという。