韓国最大のディスプレー技術の国際会議「International Meeting on Information Display(IMID)」(関連記事)。今年のIMIDのコンファレンスは、3日間にわたり、8つの会場で並行して合計80のセッションが開催され、量的にも質的にも大変充実していた。まずは人気が最も高かったVR/ARセッションから報告する。

VRの本格普及を後押しする発表が相次ぐ

 米Intel社は、VR(仮想現実感)用途にチューニングした「RealSenseカメラ」と専用ソフトウエアを紹介した(論文番号C3-1)。RealSenseは、両目から物体までの3次元的な位置関係を正確に把握できることに特徴がある。例えば、使用者が自分の手を動かすと、VR映像の中でも実際と同じように手の動きがスムーズに違和感なく再現されるという。これを使えば、ゲームに没頭しすぎたプレーヤーがリアルの世界で誤って物にぶつかってけがをしたりするのを防ぐこともできる。VRの世界を思う存分楽しむためには必須の機能だろう。

 VR専用の画像処理技術に関する発表もあった。一般に、VRでは非常に広い視野角に存在する複雑な形状の物体を自由に動かしながら、90Hz程度の高い周波数でフルHD以上の高精細デジタル画像データに随時変換して出力させなければならない。従って、非常に高価なGPUが必要になるというのが業界の常識である。それがVR普及の妨げになっていた。

 この常識を打ち破る新技術として期待されているのがFoveated Rendering(中心窩適応レンダリング)と呼ばれる技術だ。ユーザー視線の中心部分のみ高解像度で描画し、その他の部分を低解像度で描画するという、アイトラッキング機能に基づいた新しいレンダリング技術である。このFoveated Renderingの最新技術に関して米NVIDIA社から発表があった(論文番号C11-1)。今回の発表によると、必要な画像処理計算量を大幅に抑えることに成功したという。VRヘッドセット用パネルの供給メーカーが増えてパネルの単価が下がってくれば、VR市場が一気に立ち上がる可能性もあるだろう。

 このようにVR/ARセッションは実用的な発表も多かった。いよいよ本格的な普及が進むのではないかという期待も高まってきているのだが、筆者は気になっていることが1つある。それは、視界を完全に遮断して人工的な映像をすべての視野角で与え続けることの人体への影響(肉体的だけではなく精神的な観点も含めて)である。また、シューティングゲームで後ろから忍び寄る足音を聞いたら、思わずさっと振り向いて反射的に撃ってしまうだろう。ちょうどその時にゲームの内容を知らずに家族が近づいてきたら、リアルで人にけがをさせてしまうかもしれない。いずれにせよ、健康や安全に関するガイドライン作りが必須だと思う。