AI(人工知能)を活用した映像解析サービスの普及に挑むベンチャー企業がある。2014年3月に創業し、映像処理分野の機器開発を手掛けるフューチャースタンダード(東京都文京区)だ。同社は、ここ数年で発展した深層学習(ディープラーニング)をはじめとするAI技術を、システム開発者やエンドユーザーなど誰もが利用できるプラットフォームの構築を目指す。

 2016年10月に同社は、映像解析専用プラットフォーム「SCORER(スコアラー)」を販売開始した。マイコンボード「Raspberry Pi」とUSBカメラ、クラウドベースのソフトウエアから成る製品で、ユーザーは顔検知や通行人計測などの映像解析機能を簡単に利用できる。解析機能はRaspberry Pi上に実装しており、エッジでの高速な処理が可能だ。映像をクラウド上で保存・管理することもできる。

フューチャースタンダードは、製造業や小売業、交通など幅広い分野に向けて、AIを活用した映像解析システムやその開発環境を提供する。(図:フューチャースタンダードの資料)
フューチャースタンダードは、製造業や小売業、交通など幅広い分野に向けて、AIを活用した映像解析システムやその開発環境を提供する。(図:フューチャースタンダードの資料)
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 防犯カメラネットワークや小売・流通での顧客分析、工場での動線分析など、多様な用途を想定する。ユーザーによる独自機能の開発を支援するために、同プラットフォーム上で使えるPythonベースのSDK(ソフトウエア開発キット)を2017年1月に開発者向けに提供開始した。

 画像認識をはじめとするAIをオンラインで試せるサービスは多い。米Amazon Web Services(AWS)社や米Google社などは、最新のAIによる解析機能を利用できるAPI(Application Programming Interface)をクラウド環境で安価に提供する。しかし、例えば複数台のカメラ映像を解析するシステムを構築する場合、カメラの調達やネットワーク構築、データ受け渡しの設定など手間が多い。フューチャースタンダード 財務戦略担当の藤井大地氏は、「画像を1枚アップロードして画像認識結果をブラウザーに表示するだけなら、そのようなクラウドサービスを使えば良いかもしれない。しかし実際に(映像解析システムを)導入するユーザーにとっては、ハードウエアを含めたシステムを構成する部分が面倒」と語る。

 そこで同社は、カメラ本体から通信ネットワーク、動画を管理するクラウド環境まで一気通貫のサービス提供を請け負う。AIアルゴリズムなどの技術と開発者、エンドユーザーをつなぐ“架け橋”としての役割を担うわけだ。幅広いユーザーが利用できるようにするため、入力型式にもこだわらない。「ネットワークカメラでもUSBカメラでもスマートフォンで撮影した動画ファイルでも、入り口は何でも構わない。フューチャースタンダードの基盤を利用してくれさえすればよい」(藤井氏)。

監視カメラ向けのネットワークカメラに加え、安価なUSBカメラやスマートフォンで撮影した動画のファイルといった多様なデータ入力に対応する。(図:フューチャースタンダードの資料)
監視カメラ向けのネットワークカメラに加え、安価なUSBカメラやスマートフォンで撮影した動画のファイルといった多様なデータ入力に対応する。(図:フューチャースタンダードの資料)
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 同社がこの事業を始めたきっかけは、画像解析に特化した共通OSの欠如に目を付けたことだ。カメラは年々安価になり、その数も人口よりはるかに多くなったものの、映像解析技術は製品ごとにパッケージ化され、しかも高価だと同社はみている。誰もが使える標準プラットフォームを確立できれば、大手システムインテグレーターらがプロジェクトのたびに一からシステムを開発するのと比較して、コストも手間も節約できるという。