正方晶(左)、菱面体晶(中央)、MA型の単斜晶圧電体(右)の結晶構造
正方晶(左)、菱面体晶(中央)、MA型の単斜晶圧電体(右)の結晶構造
正方晶相と菱面体晶相は電気分極の方向(矢印)が固定されているのに対し、単斜晶相では分極の方向がピンクの面内で回転できる(図:東工大のプレスリリースより)
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MC型単斜晶、MA型単斜晶、正方晶構造の模式図(上)と、圧電特性のCo置換量依存性
MC型単斜晶、MA型単斜晶、正方晶構造の模式図(上)と、圧電特性のCo置換量依存性
(図:東工大のプレスリリースより)
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 東京工業大学と東京大学の研究グループは2016年8月23日、圧電体の結晶中で、電気分極の方向が回転することにより圧電特性が向上することを実験的に確認したと発表した(ニュースリリース)。環境に有害な鉛を使わない新圧電材料の開発につながると期待される。

 力を加えると電荷が発生し、電圧をかけると変形する圧電体は、電気と運動(変形)を変換する物質として、超音波診断機やインクジェットプリンター、カメラなどさまざまな電子機器のセンサーやアクチュエーターに使われている。現在の主流は、PZTと呼ばれるチタン酸鉛とジルコン酸鉛が混ざった固溶体材料だが、毒性元素である鉛を重量で68%含むため、非鉛の代替物質の開発が望まれていた。

 PZTの優れた圧電特性は、菱面体晶ペロブスカイトのジルコン酸鉛と正方晶ペロブスカイトのチタン酸鉛との相境界に、単斜晶相と呼ばれる対称性の低い結晶相が存在し、そこで電気分極の方向が結晶構造内で変化(回転)できることによると考えられる。しかし、これまで実験で確認されていなかった。

 研究では、結晶構造の類似性から、菱面体晶ペロブスカイトの鉄酸ビスマスと正方晶ペロブスカイトのコバルト酸ビスマスとが混ざり合った固溶体BiFe1-xCoxO3に着目。これまでに同固溶体の結晶構造を解析し、PZTで見つかったのと同様のMA型の単斜晶相が存在すること、その結晶構造において電気分極の回転が実際に起こりうることを示してきた。

 今回、BiFe1-xCoxO3を圧電特性の評価が可能な薄膜形態で安定化させることに成功。薄膜X線回折と走査透過電子顕微鏡を用いた詳細な結晶構造解析を行い、コバルト量の増加に伴って結晶構造がPZTとは分極の方向が異なるMC型の単斜晶相からMA型へ、さらに正方晶相へと変化することを見出した。

 詳細な圧電特性評価の結果、MA型の単斜晶相で圧電特性が向上することが明らかとなった。また、分極が回転する余地のある、結晶歪みの大きな構造ほど圧電特性が向上した。これは、電気分極の方向が回転することで圧電特性が向上することを意味し、ペロブスカイト圧電体の圧電特性向上のためガイドラインを示すものという。

 今回の成果は、独国科学誌「Advanced Materials」オンライン版で2016年8月24日に公開された。