今回開発した有機ハイドライド水素貯蔵システム
今回開発した有機ハイドライド水素貯蔵システム
(出所:京都大学)
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 京都大学は7月31日、イリジウム触媒を用いた効率的な有機ハイドライド水素貯蔵システムを開発したと発表した。ジメチルピラジンという、窒素を含んだ化合物を水素と反応させ、ジメチルピペラジンという物質として水素を蓄える。同一のイリジウム触媒を用いて水素を取り出すことも可能で、この2つの反応を比較的、穏やかな条件で達成することに成功した。

 常温常圧ではガス状態で爆発性のある水素は、実用的な利用には安全かつ効率的な貯蔵システムの構築が不可欠となる。これまで水素吸蔵合金やカーボンナノチューブなどを媒体とする水素貯蔵システムの研究が活発に行われているが、媒体自体の重量や繰り返し使用による劣化、貯蔵のための資源をどのように確保するかなど、多くの問題を抱えている。

 その中で、有機化合物に水素を貯蔵する有機ハイドライド水素貯蔵システムに注目が集まっており、特に窒素を含む複素環式化合物は、炭素環式化合物と比べて脱水素化反応に必要な温度が低く有望とされる。しかし、これまで研究されてきたN-エチルカルバゾールなどを用いたシステムでは、水素の貯蔵と放出で異なる触媒が必要で、貯蔵の際に50気圧程度以上の高圧水素や大量の溶媒を用いるといった問題があった。

 これらの問題を解決するため、脱水素化と水素化のいずれにも高活性を示す新しい触媒を利用し、比較的温和な条件下で水素を貯蔵・取り出せる新しい有機ハイドライド化合物を探索した。ジメチルピラジメチルピペラジンジンという化合物に、研究チームが開発したイリジウム脱水素化触媒を用いることで、3分子の水素を放出しながらジメチルピラジンへ変換されることが分かった。逆に、同じイリジウム触媒を用いて、従来の方法より低圧の15気圧の条件下で水素を貯蔵できることが分かった。

 水素貯蔵と水素放出の反応を連続的に繰り返した結果、少なくとも4回目までの繰り返し実験では、触媒の性能が低下せず水素の貯蔵と放出がほぼ100%で高効率的に行えた。反応溶媒(p-キシレンと水)の添加量が従来法と比べて大幅に少なく、水素貯蔵の効率性を高めることにつながった。さらに、水素の収率が78%と若干低下するものの、溶媒を全く用いない条件でも可逆的な水素放出と貯蔵が可能という。

 今回開発した水素貯蔵システムでは、有機ハイドライド分子と溶媒の合計100gあたり3.8gの水素を貯蔵できた。溶媒を用いない場合は4.1gの貯蔵が可能。これらの数値は、従来報告されていた窒素を含む有機化合物を用いた水素貯蔵システムに比べて格段に高い数値だが、実用的な水素貯蔵システムへと発展させるにはシステム100gあたり貯蔵量5gを超えるような新しい有機ハイドライド分子を探索し、より高活性な触媒を開発する必要があるとしている。

 水素化反応と脱水素化反応を同一触媒で行う水素貯蔵システムは、例えば有機ハイドライド分子と触媒を密閉し、水素燃料電池を接続してパッケージ化することで危険な水素ガスを直接扱うことなく電気エネルギーを与えるようなモジュールを設計できる可能性があるなど、大きな利点があり発展性が期待されるという。

 今回の研究は、ENEOS水素基金、東燃ゼネラル石油研究奨励財団、文部科学省科学研究費「新学術領域研究:精密制御反応場」による支援を受けた。研究成果は、ドイツの学術誌「Angewandte Chemie International Edition」に7月27日掲載された。