NECは2016年8月17日、伝統工芸の漆器と同等の漆黒を実現したバイオ樹脂を開発したと発表した(図1、図2)。非食用植物(木材やワラなど)を原料とするセルロース樹脂に色と反射性を調整する成分を添加することで、明度の低い黒色と高い光沢(つや)を両立させた。今後、高級自動車の内装部材、装飾性を要する建材や電子機器など、耐久性が必要で比較的大型の工業製品への応用を目指して、樹脂材料メーカーなどと協力して実用化を図る。

図1 漆の黒さを表現できるバイオ樹脂の成形品
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図1 漆の黒さを表現できるバイオ樹脂の成形品
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図1 漆の黒さを表現できるバイオ樹脂の成形品
NECが京都工芸繊維大学、漆芸家の下出祐太郎氏と共同で開発した。左の写真で成形品に見える模様はシャンデリアの映り込み。

黒さとつやを両立

 漆黒の特徴は色味に白っぽさが全くないことと、鏡面のようなつやがあること。新しいバイオ樹脂の開発に当たっては、日本を代表する漆芸家で下出蒔絵司所3代目・京都産業大学教授の下出祐太郎氏に依頼して漆による仕上げ見本を作製し、これを目標として特性を近づけた。その結果、明度のL*値(拡散反射光のみを測定するSCE方式)は仕上げ見本が1なのに対して新しいバイオ樹脂は2~3にまで低減できた。つやについては、光沢計での測定による光沢度(20°)を仕上げ見本が100であるのに対して92、同じく光沢度(60°)を見本の100に対して95にまで高められた。

 色味の調整には炭素の微粒子を使用(図3、図4)。「粒径を十分小さくした上、ベースの樹脂の化学構造にマッチングするように微粒子表面の官能基を調整した」(開発に当たったNEC IoTデバイス研究所主席研究員の位地正年氏)という。光沢度の調整には、高屈折率の有機成分を添加剤として混ぜた。NECはこの有機成分を明らかにしていないが、芳香環(ベンゼン環)を含む化合物であり、複数の候補をテストしたという。さらに、この有機成分もベースの樹脂に合わせて分子構造を最適化することで、ベース樹脂の中に均一に広がるようにした。

図2 開発したバイオ樹脂のペレットと添加剤
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図2 開発したバイオ樹脂のペレットと添加剤
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図2 開発したバイオ樹脂のペレットと添加剤
左がベースとなるセルロース樹脂と、着色剤の炭素の微粉末、つやを出すための添加剤。右が着色剤、添加剤を加えた後のペレット。