チオフェンと縮環チオフェンの構造
チオフェンと縮環チオフェンの構造
(図:名古屋大学のプレスリリースより)
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チオフェン縮環反応の従来法
チオフェン縮環反応の従来法
縮環チオフェンの材料として2置換芳香族化合物を合成する必要があり手間がかかる(図:名古屋大学のプレスリリースより)
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開発したチオフェン縮環反応
開発したチオフェン縮環反応
1置換芳香族化合物を合成する過程で精製操作を行うことなく最短2段階で縮環チオフェンを得られる(図:名古屋大学のプレスリリースより)
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今回のチオフェン縮環反応で合成した縮環チオフェン群
今回のチオフェン縮環反応で合成した縮環チオフェン群
赤色の部分がチオフェン縮環反応で生成したチオフェン環(図:名古屋大学のプレスリリースより)
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 名古屋大学は2016年8月9日、有機半導体に欠かせない「縮環チオフェン」を簡単に合成できる新反応を開発したと発表した(ニュースリリース)。従来法では5~6段階必要だった工程を最短2段階に大幅に短縮できるとともに高価な試薬を必要としないことから、縮環チオフェン合成法の決定版として今後広く利用される可能性があるという。

 縮環チオフェンは、硫黄と炭素から構成される5員環「チオフェン」を含む芳香族化合物のことで、高性能な半導体材料として高移動度トランジスタや有機薄膜太陽電池、有機ELなどの電子デバイスには欠かせない重要な分子となる。また、有機化合物特有の柔軟性も備えており、ウエアラブルデバイスの鍵物質としても広く応用されるようになっている。

 一方、芳香族化合物に新たにチオフェン環を連結させ縮環チオフェンを得る「チオフェン縮環反応」を行うには、あらかじめ2つの置換基を芳香族化合物に導入した原料を合成する必要があり、その工程が煩雑であることから、より短工程かつ簡便なチオフェン縮環反応の開発が求められていた。

 今回、1置換芳香族化合物を有機溶媒中で硫黄と混ぜて加熱撹拌するという極めて簡単な方法によって、芳香族化合物にチオフェン環を連結する反応を開発した。1置換芳香族化合物は、芳香族化合物に対してパラジウム触媒による薗頭カップリングを行うことで容易に合成できる。また、今回の反応では、本来反応性が低い炭素−水素結合を切断できるため、反応性の高い原料を別途合成する手間を省くことができる。

 研究グループは、今回の手法を用いて20種類の新しい縮環チオフェンを合成した。導入したアルキン部位の数だけチオフェン環を縮環することができるため、複数のチオフェン環が縮環した芳香族化合物も合成可能で、実際に1分子に対してチオフェン環が2つ、3つ、5つ縮環した分子を合成した。さらに、有機電界効果トランジスタ材料として現在最高峰の性能が報告されている分子の合成にも成功した。

 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業の一環で実施した。研究成果は、米国化学会誌「Journal of American Chemical Society」オンライン速報版で2016年8月8日(米国東部時間)公開された。